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携帯電話など情報通信分野の発展に乗り、売上を急速に拡大させたが、携帯電話の普及が一巡し、通信事業者からのインセンティブが減少したことから、大幅な減収に陥る。他業種への進出により再び業績回復を実現したが、この間社内の組織作りやリスク管理は整備が遅れていた。資本提携先の信用不安の影響を大きく受け、個人情報を流出させるなどの事故を引き起こし、事業停止に追い込まれた。
所在地 | 岩手県 |
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業種 | サービス業 |
従業員数 | 135名 |
設立・創業 | 平成9年3月設立・平成7年創業 |
事業分野 | その他(テレマーケティング業) |
事業概要 | 携帯電話等販売業として個人創業したが、テレマーケティング業務に進出。その他、大手通信事業者の運営するマイラインの外販営業、インターネットセキュリティ関連のサービスを展開。 |
社長の年齢 | 30歳代 |
創業時の属性 (職業) |
会社勤務(中途退社) |
携帯電話販売業から、テレマーケティング業に進出し、急激に業容を拡大させたが、その後需要は一巡し減収推移に陥る。さらに資本提携先の摘発による信用不安の発生や個人情報流失事故の発生などが重なり、事業運営が困難となり、民事再生法を申し立てた。
平成7年に携帯電話等販売業として個人創業したが、携帯電話販売が急激に売上を伸ばしたため営業拡大は順調に進んだ。平成9年3月の法人化によりテレマーケティング業務に進出。平成11年2月期には4億円に満たなかった年間売上高は平成12年2月には14億円を突破した。その後、大手通信事業者の運営するマイラインの外販営業、インターネットセキュリティ関連のサービスを行い、急激に業容を拡大。13年2月期決算ではピークとなる年間売上高約15億円を上げた。急成長の原動力となったのは、出資者でもあるN社の顧客に対するテレマサービスが本格化したためで、13年2月期決算の売上高15億円のうちテレマ部門の売上が7割程度まで達していたと伝えられる。
携帯電話や高速通信網の発達にうまく乗り順調な増収傾向で推移してきたが、その後需要の一巡により前年比約10億円の減収となる。N社からの急激な受注増に対応するためテレマ部門の人員供給が追いつかなくなったこと、さらに携帯電話キャリアからのインセンティブなど手数料収入の大幅減が要因となった。また、この頃好調を極めていたG社と代表者が急接近し、G社が当社に合併の話を持ちかけてきたが、この時点では1億5,000万円の社債を発行して同社との資本提携を行う形で決着。その後G社社長が証券取引法違反で逮捕され、資本提携を解消したが、G社関連として信用面が低下。また18年6月にはテレマ部門の主力受注先となっていたK社の顧客情報流出が判明、無期限に取引再開が見込めない状態となり、当年度決算を行うことなく事業停止に追い込まれた。
携帯電話販売の手法として確立したテレマーケティング業務を本業に据えて、別の受注先を開拓する方法で大手通信事業者やインターネット関連事業者との取引関係を構築した。またノウハウを活かした受注先開拓を目指し、販売力の弱い地方メーカーなどを対象に、通信販売ノウハウの提供やEコマース支援コンサルティング事業などのてこ入れにより、18年2月期は9億円弱まで増収に成功し、これまでの損失補填を図った。しかし、顧客情報流出やG社による騒動に巻き込まれるなどにより大きな打撃を受け、資金繰りは更に厳しい状況に追い込まれることとなった。結局、19年3月民事再生法を申し立て、その後破産に移行し事業継続を断念した。
急激な拡大に対して社内供給やリスク管理体制の構築が遅れていた
大手筋との取引によって、急拡大する受注内容に対応するためのオペレーターや教育管理部門の構築が遅れた。また、取引先の集中などリスク対応に関わる部分で専門のスタッフや部署、的確なアドバイスを行う人物がいなかった。
拡大しつづけてきた携帯電話市場の構造転換、突発的なトラブルが次々と発生した
携帯電話の普及一巡によりキャリア及びメーカー、販売代理店間の経営方針がそれぞれ変化。高額のインセンティブにより好調を持続してきた代理店にとっては、本格的な競争に始めて晒されることとなり、当社もそのあおりを受けて売上の急減を招いた。また、資本提携先社長が逮捕され、同社の信用不安の影響を大きく受ける形となり、さらに個人情報流出事故を起こすなど、深刻なトラブルが重なった。
急激な企業規模の拡大は一方で取引上のリスク増加に繋がる。速いテンポで変化し続ける現代、特にITに関わる分野においてはこれらのリスクをいかに回避するかがポイントとなる。携帯電話分野からの撤退及びテレマ業務へのシフトに関する経営判断が間違っていたとは言えないが、当初設立直後より業況の急拡大で知名度を上げてきた実績もあって焦りが生じ、社内体制の構築よりも売上規模の拡大を優先した点に注意が必要である。大手筋との取引がいけなかったとか、早すぎたということではなく、自社の能力と可能性を冷静に判断した上での取引先拡大が必要だったのではないか。
当社が早くからベンチャー企業として注目を集めたのは携帯電話やITの発達にうまく乗ったからと見て間違いないが、皮肉なことに、その分野における急激な環境変化が当社の足かせになった。当社以外にも地方資本の携帯電話販売代理店が多数オープンしており、中には未だに営業を継続しているところもあれば閉店に追い込まれたところもある。当時はG社とその代表者がメディアをにぎわしていた時期でもあり、当社もそれにならって大手通信事業者やIT事業者との取引で業容の急拡大を目指したことは自然なことと言える。
設立後早い段階で社内管理やサービス供給部門を任せられる人材を養成する必要があった。また、社内外に経営上の助言者やパートナーを見つけておけば、業績アップに焦るばかりでなく、冷静に自社の置かれている状況を分析し、適切な経営判断を下すことができたかもしれない。大手との取引は経営者として大きな魅力であるが、リスク面を考えれば受注先の分散は優先課題とすべきであったし、仮にやむを得ず特定受注先への集中が想定される場合には、あらゆるリスクに対して事前に対策を講じておくべきであった。
自分の会社を大きくしたい気持ちは大切であるが、実際に卓越した営業力や製造技術を持っていたとしても、それだけで会社を持続的に成長させることはできない。逆に、一見すると無駄に思えるような人材育成、取引先との連携強化が会社の潜在能力を高め、会社の持続的な発展に繋がる。また最初の立上げがうまくいった企業は、業界や地域、取引先の期待が大きくなるため、とかく焦りが出やすいものだが、それが経営上の支障となっては何もならない。
元社長O氏は設立前に大手総合警備会社に勤務し、25歳で全国優秀営業員賞を受賞するなど、その営業力には定評があった。大手筋との取引に成功したのも同氏の営業センスがあってこそのものである。現在は、東京に居住しており、かつての仲間とともになんらかの事業に参加しているとされ、いずれ機会があれば事業家としての再起を図りたい意向と伝えられる。