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39 製造業の経営の失敗(39):商品開発の長期化の失敗

会社の倒産、破産に強い弁護士の鈴木陽介です。

ここでは、独自商品の開発が長期化した経営失敗の実例をご説明します。経済産業省の公表資料「ベンチャー企業の経営危機データベース」に基づいており、弁護士の鈴木が適宜修正編集等しています。

なお以下が会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧です。ご活用いただければ幸いです。
・ 会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧


会社経営の失敗の概要


 独自商品の開発が長期化し多大なコストが発生

商品開発に際し、試作品を作成するも、なかなか完成品にはつながらなかった。専門分野のため、周囲に技術的なアドバイスを求めようにも存在せず、一人で試行錯誤を重ねた。開発は長期間におよび、多大なコストと時間を費やすこととなった。完成後も小規模企業ゆえに営業力が不足していたため、思うように販路が確立出来ない悩みを抱えていた。

 企業プロフィール

所在地 三重県
業種 製造業
従業員 8名
設立・創業 設立:平成11年7月/創業:平成3年4月
事業分野 屋外広告ネオンサイン製作施工、店内サイン製作施工
事業概要 米国製ネオンを用いたネオン管製造業を手掛け、高度な技術力で大手飲料メーカーからの受注を確保。主に輸入ビールの銘柄の小型ネオンサインを製作してきた。ここ数年は炎の揺らぎを表現する、火を使わないネオンの開発に注力。平成18年に商品化に至り、今後の市場拡大に期待される。
社長の年齢 40歳代
創業時の属性
(職業)
会社勤務(その他:実父経営の会社)


会社経営の失敗の詳細


 結論

商品開発に際し、計画書通りのものが出来ず、つまづきを繰り返した。専門分野のため技術支援も得られないため、一人で試行錯誤を重ね、多大なコストと時間を費やすこととなった。商品化後も、小規模企業ゆえの営業力不足のため、販路開拓に苦労することとなった。

 設立から成功までの経緯

デザイン学校を出た後、家業の看板業に勤務してネオン管製作事業に携わる。のちにネオン機器及び材料の米国トップメーカーの社長と出会い、ネオンに魅せられ事業拡張を決意。平成3年に家業から独立する形で当社前身企業を設立し、同11年に同社に経営体を変更した。当初は市場環境が良く、すぐに事業は軌道に乗り小規模ながら収益も確保した。平成10年より大手飲料メーカーとの直接取引きを開始するなど、概ね順調な推移にあったが、景気悪化と共に受注が減少するようになった。次第に、大手からの下請的な受注に依存せず、独自の商品開発が必要だと感じるようになり、炎の揺らぎを表現する、火を使わないネオンの開発に乗り出し、同18年に完成させ、商品化に成功した。

 トラブル・失敗・課題に至る経緯

商品開発は、頭の中でシュミレーションしたものを実際に製作しては作り直す試行錯誤を繰り返した。県のベンチャー支援事業として補助金を受けていたが、提出した計画書通りのものが出来ず、一旦は支援の辞退をも考えた。専門分野のため、周囲に技術的なアドバイスを得られる先も存在せず、相談が出来ないまま一人で試行錯誤を重ね、結果的に多大なコストと時間を費やすこととなった。
また、商品完成後は営業力が不足していため、販売代理店方式が取れず、思うように販路が確立出来ないうえ、多数の業者が介入して市場価格を引き上げていることに頭を悩ましている。

 対処と結果

つまづきの連続で一旦は開発をあきらめかけたものの、もう一度方向性の違った切り口で研究に取り組もうと決意。すると、偶然ではあるが、ちょっとしたアイディアを採り入れて製作したところ、理想としていたものに行きついた。その後実験を繰り返し、ついに完成に至った。
販売については、展示会ではかなりの反響があるため、展示会への出展をベースにした営業を行うこととした。

 原因

(1) 特性

小規模企業としての限界
経営者自らが開発から製作、営業面など経営の全てを取り仕切っており、労力、コスト、時間、設備など全ての資源に限界があった。アイデアが優れていてもそれをビジネスに変えるには、当社のような小規模企業にはハードルが多い。

(2) 要因

経営者のサポート役が不在
専門分野であるがゆえ、開発に際しての技術で支援が受けられない。また、営業戦略などの経営面でのサポート役が存在していなかったため、技術面、経営面ともに相当な労力・時間を要する結果となった。

 経営判断の問題点

専門知識を持った人材の確保が出来ればベターであったであろうが、小規模企業にとって必要な人材の獲得は容易ではない。優秀な人材ほど当社のようなベンチャー企業が獲得することは困難である。営業面では今まで経験の無い販路に対し、どのように開拓していくかなど、計画がやや準備不足であったといえる。

 背景

制度のうえでは、資金的にはベンチャー企業を支援する土壌は整っており、当社の場合も補助金を得たことが開発意欲をかき立てる原動力となった。

 得られた教訓

社内をはじめ周囲にアドバイザー的な存在がいれば、もっと短期間で労力をかけずに開発や販路の確立が出来た可能性がある。技術面で信頼出来る人材を確保することはまず無理であったが、営業面では試作品成功の段階から準備を整え、営業面を任せられる人材が必要であった。

 後日談

商品の開発には予想以上に失敗と苦労を重ねたが、試行錯誤でようやく理想的な商品の完成に漕ぎ着けることが出来た。商品力には自信があり、多方面から強い引き合いが来ているが、卸売方式では複数の業者が介入して実際の末端価格は2倍にも引き上げらるケースがあり、市場を拡大出来ない原因となっている。この点、大手と比較して販売力の差は明らかである。今後は販路の確立を急ぐ方針である。

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書籍:歯科医院の事業承継とM&A

学建書院,2016年