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過大受注し対応できず取引先への信頼を失った経営失敗の実例です。経営不振に悩む経営者の方は、会社の倒産、破産に強い弁護士にご相談下さい。

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38 製造業の経営の失敗(38):過大受注での取引先の信頼喪失

会社の倒産、破産に強い弁護士の鈴木陽介です。

ここでは、過大受注し対応できず取引先への信頼を失った失敗の実例をご説明します。経済産業省の公表資料「ベンチャー企業の経営危機データベース」に基づいており、弁護士の鈴木が適宜修正編集等しています。

なお以下が会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧です。ご活用いただければ幸いです。
・ 会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧


会社経営の失敗の概要


 過大受注し対応しきれず取引先の信頼を喪失

事業の一環でおせち料理の製造販売を扱い商品受注は順調であったが、社内での連絡ミスや確認漏れが影響し、作業が遅れる。受注に対応できない可能性に気付き即日受注締切を決断するも、顧客対応が追いつかず、結果過大受注となった。対応による損失計上で経営は苦しくなったが、取引先の協力を受けつつ信頼回復に努めている今日であり、当社の技術力を認めて支援する企業も現れている。

 企業プロフィール

所在地 北海道
業種 製造業
従業員 35名
設立・創業 設立:昭和55年4月/創業:昭和55年4月
事業分野 新素材
事業概要 平成12年冷凍にぎり寿司の開発に成功。コメとネタに海藻を使った特殊な液体で前処理して急速冷凍すると、解凍時にネタから汁が垂れたり、コメがぱさついたりするのを防ぐことができる。この冷凍技術を活かして各種冷凍食品の製造を行っている。
社長の年齢 40歳代
創業時の属性
(職業)
会社勤務(スピンオフ/スピンアウト)


会社経営の失敗の詳細


 結論

冷凍にぎり寿司の急速冷凍加工技術を活かしたおせち料理の製造販売で、一万セット以上を受注。受注に対応できない可能性に気付き即日受注締切を決断するも、顧客対応が追いつかず、結果過大受注となり、一部の配達を断念する事態となった。おせち料理の配達を断念した一部受注に対する対応、および数ヶ月の工場停止など自粛措置で多額の損失を招き経営は苦しくなったが、取引先の協力を受けつつ信頼回復に努めている。また、大手食品メーカーなどからの出資を得るなど、当社の技術力を認めて支援する企業も現れている。

 設立から成功まで

昭和55年船舶を利用した海鮮レストランの経営を目的に設立され、平成8年にはいち早く地ビールの醸造も開始。飲食店を多店舗化して知名度を高めた。様々な料理提供システムの考案にも力を入れ、平成12年地域名産品の全国販売を望んで冷凍にぎり寿司の開発へとつながった。この技術は数々の食品コンクールで最優秀賞を受賞するなど、高い評価を得た。

 課題・ヒヤリとした経験

冷凍にぎり寿司の急速冷凍加工技術を活かしたおせち料理の製造販売を開始し、平成16年末には予定していた数千セットが完売するなど好調な売れ行きを示した。同17年末には宣伝効果もあって同商品に予約が殺到し、一万セット以上を受注。社内での連絡ミスなどもあり作業が遅れる中で、生産能力を上回る恐れに気づき即日受注締切を決断。しかし、毎日千件もの申し込みが電話・FAX・手紙で殺到し、人員的も不足する中ではお断りの対応すら出来ない状況となる。結果として、一部受注に対する配達を断念する事態となった。

 対処と結果

記者会見を開いて過大受注に対応できない旨を謝罪し、すべてを公表して説明した。この会見が新聞・TVに報道され、津波のような申し込みもストップした。おせち料理の配達を断念した一部受注に対しては、代わりに同等の料理セットを無料で配達。また、4カ月にわたり工場停止など自粛措置を取り、内部体制の再構築に努めた。
無料配達や3カ月の工場停止により多額の損失を招き、経営は苦しくなったが、その後国内大手食品メーカーからの出資を得て資本を拡充。続いて、外国企業からの出資を得る予定で、当社の技術力を認めて支援する企業も現れている。

 原因

(1) 特性

企業成長についていけなかった内部体制の整備
企業の成長に応じた内部体制が出来ていたとは言えず、各部門の中核となる人材が不足。社内での連絡ミスや確認漏れが発生した。また、危機管理などのリスクに対応するマニュアルも作っていなかった。

(2) 要因

能力を上回る過大受注
生産能力を上回る受注の可能性に気付き、即日受注を締め切る経営判断をするも、顧客から押し寄せる申し込みへの対応が追いつかず、結果過大受注となった。

 経営判断

当社は次々と事業を展開していく中で高い技術力を持っているが、企業の成長に人材の育成が伴っておらず、外部から人材登用などの備えも怠っていた。人材不足で会社の内部体制が十分に整っていない中で、生産面・顧客対応面とも対応しきれない注文が殺到する事態になってしまった。

 背景

特に失敗の背景に世の中の状況は影響していない。地ビールブームが終われば、随時撤退を図るなど柔軟に対応してきた。平成16年には当時総理大臣が当社を視察して大きく報道されるなど、プラス材料もあった。

 得られた教訓

「優れた人材を確保すること」に尽きる。おせち料理の失敗では、正月から徹夜で顧客対応して会社を守ってくれた人もいれば、一方で無責任とも言える対応を取った人がいたことも事実。成長に見合った組織とそれを支える核となる人材の確保、人材層を厚くすることが企業にとって重要である。また、危機管理などのマニュアルが一切なかったことも反省材料である。さらに、失敗後は経営が苦しくなったため、ある程度の企業体力(資金力)も必要である。

 後日談

おせち料理の失敗があって経営は苦しくなったが、引き続き取引を続けてくれている得意先もあり、大変感謝している。また、外国企業からの出資も予定しており、資金不足の解消に目処を立てることができた。今後は同じ過ちを繰り返さないように、内部体制の強化を図ると共に信頼の回復に努めていく。

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