M&A・事業承継に強い、弁護士の鈴木陽介です。
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弁護士鈴木が力を入れているM&A・事業承継のコラムです。
DCF方式の株式評価を採用した判例、ベンチャー企業の株式評価で収益還元方式を採用した判例をご紹介します。内容は、中小企業庁の公表資料「
経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン(平成21年2月,中小企業庁)」に基づいており、弁護士鈴木が適宜編集等しています。
非上場株式の株価評価のコラム
株価評価の判例紹介のコラム
DCF方式を採用した裁判例
東京地裁平成20年3月14日決定:事案の概要
本件会社は、各種繊維工業品、医薬品、化粧品等の製造販売を営む株式会社であり、発行済株式総数は、普通株式2億2641万5057株、A種類株式(議決権のない優先株式)3000万株、B種類株式(議決権のない優先株式)3000
万株、C種類株式(議決権を有する利益配当請求権のない株式)1億1513万1500株である。
本件会社は、東証1部上場企業であったが、平成17年6月13日に上場を廃止した。
本件会社は、主要事業として、食品事業、HP事業及び薬品事業の3事業を有していたが、平成18年4月14日、取締役会において、HP事業をX社が出資しているY社に、薬品事業をZ社に、それぞれ営業譲渡する旨の決議をするとともに、食品事業を営む本件会社の子会社の株式をX社に譲渡する旨の決定を行った。
本件会社の株主Aら534名(持株割合は合計約4%)は、上記営業譲渡に反対し、その所有する株式の買取りを請求した。
裁判所の判断
1 本件株式の評価方法:継続企業としての評価
本件においては、上記のとおり、営業譲渡が行われずに会社がそのまま存続すると仮定した場合における本件会社の株式の価値を評価すべきであるから、基本的に本件会社の継続企業としての価値を評価すべきである。
次に、支配権の移動という観点からの評価が必要か否かを検討する。(中略)Aらがその所有する本件会社の株式を手放したとしても、本件会社における会社の支配権に対して与える影響はほとんど考えられず、本件における買取価格の算定については、支配権の移動という観点から株式価格を評価する必要はないというべきである。
以上によれば、本件においては、本件会社の普通株式の価格を算定するに当たっては、専ら、本件会社の継続企業としての価値を評価するという観点から判断手法を選択すれば十分であり、当該判断を覆すに足りる的確な証拠は存在しない。
2 ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式の相当性
そこで、当該営業譲渡が行われなかったと仮定した場合における本件会社の継続企業としての価値を評価するについて、どのような評価方法が相応しいかについて検討する。
鑑定人○○の株式鑑定評価意見書によれば、@収益方式(インカム・アプローチ)は、評価対象会社から将来期待することができる経済的利益を当該利益の変動リスク等を反映した割引率により現在価値に割り引き、株主等価値を算定する方式であること、A収益方式の代表的手法として、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式(以下「DCF法」という。)があること、BDCF法は、将来のフリー・キャッシュ・フロー(=企業の事業活動によって得られた収入から事業活動維持のために必要な投資を差し引いた金額)を見積り、年次ごとに割引率を用いて求めた現在価値の総和を求め、当該現在価値に事業外資産を加算したうえで企業価値を算出し、負債の時価を減算して株式等価値を算出して株主が将来得られると期待できる利益(リターン)を算定する方法であることが認められる。
上記認定事実によれば、本件において、継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法は、収益方式の代表的手法であるDCF法ということができ、本件会社の株式価格の評価に当たっては、DCF法を採用することが相当である。
3 他の評価方式について
〇 配当還元方式について
本件会社は、本件営業譲渡の当時、産業再生機構の支援を受けている事業再生途上の企業で、配当を行うことができる状況にはなかったこと、本件会社について一般に妥当とされる配当額を求めることは困難であること、事業再生途上の企業は成長性や成長率が必ずしも明確とは言い難いことが認められる。そうだとすると、本件会社の株式を算定するに当たって、実際配当還元法、標準配当法及びゴードンモデル法のいずれの方式も考慮することは相当ではなく、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
〇 取引事例方式について
まず最初に取引量についてであるが、前記前提事実によれば、本件公開買付で取引の対象となった株式数は2181万4229株であるのに対し、本件買取請求に係る株式総数は合計約677万株(各申立人の所有株式数は100株から145万3100株)であることが認められる。そうだとすると、本件公開買付が少数株主を対象としている点において、本件買取請求の対象となっている各申立人の所有株式数との間で類似性があるといえないではない。しかし、全体の取引数量を比較すると、本件公開買付によりX社が取得した株式は、各申立人の所有株式の合計の3倍以上の量があり、その株式数も各申立人の所有株式の合計に比べて1500万株以上も多く、同程度の取引量ということはできないから、本件鑑定人の見解に照らし、本件買取請求に関する買取価格を決定するについて本件公開買付の価格を参考とすることは適切とはいえない。
本件会社は、本件公開買付の買付価格の客観性が第三者機関による評価によって担保されていると主張するが、本件鑑定人の判断は十分合理性が認められ、また、上記第三者機関の評価を踏まえた本件公開買付の買付価格が1株162円であり、 本件鑑定人の判断である1株360円と2倍以上の開きがあることからすると、上記第三者機関の評価を参考とした結論が採り得ないことは後記で検討のとおりであるので、この点に関する本件会社の主張も採用することができない。
〇 純資産方式
本件会社の株式を算定するに当たっては、本件会社の継続企業としての価値を算定する観点から判断する必要があるところ、純資産方式は、上記でみたとおり、事業継続を前提とする会社においてその企業価値を評価する方法ではないから、本件ではこの方式を考慮するのは相当ではないということになる。
〇 類似会社比準方式
本件会社は、かつて東京証券取引所第1部に株式を上場していた会社であったし、資本金額も350億9998万5000円であり、鑑定基準日現在でも上場会社に匹敵する規模を有している会社とみることができる。そうだとすると、本件において、類似会社比準方式を考慮することもあながち不合理であるとまではいえないではない。しかしながら、前記認定したとおり、本件会社は、最近まで産業再生機構の支援を受けていた事業再生途上の会社であって、このような状況にない上場会社とは経営状況が大きく異なり、本件会社と規模の類似する上場会社を勘案・比較することには問題があることが明らかである。そうだとすると、本件ではこの方式を考慮するのは相当ではないことになる。
4 小括
以上の検討結果によれば、本件においては、本件会社の株式を算定するに当たっては、継続企業としての価値を評価するという観点から、DCF法に従って評価するのが相当であり、当該判断を覆すに足りる的確な証拠は存在しない。
5 本件株式の評価
〇 非支配株式の減価(マイノリティ・ディスカウント)
このような調整は客観的な根拠があるわけではなく、通常は、売買当事者の価格交渉において使われる調整事項であることを考慮して、マイノリティ・ディスカウ
ントという考え方は採用しない。
〇 市場価格のないことの減価(非流動性ディスカウント)
事業の合併・買収取引に際して非公開会社を評価する場合、当該会社の株式の流動性の欠如を理由とするディスカウントを加味するのが一般的である。しかしながら、株式買取請求権の制度は、多数株主によって会社から離脱することを余儀なくされた少数株主の経済的損失を保護することを目的としたものであり、少数株主は株式売却を意図していないにもかかわらず譲渡を余儀なくされたのであるから、株主が進んで株式を売却することを前提とした非流動性ディスカウントを考慮すべきではない。
ベンチャー企業の株式評価で収益還元方式を採用した裁判例
東京高裁平成20年4月4日決定:事案の概要
本件会社は、平成12年2月8日に設立された株式会社で、デジタルコンテンツ配信事業を営んでいる。
本件会社の発行済株式総数は、6000株であり、その株主構成は、X社が2400株、Y社が3600株で、本件会社はY社の連結子会社である。
本件会社は、設立後さほど年数を経過しておらず、不動産等の含み益のある資産を所有しておらず、これまで配当を実施したこともなく、将来配当を実施する予定もない。
X社は、その所有する本件会社の株式2400株を譲渡するに際し、平成19年3月22日付け書面をもって同会社に承認を求めたが、同会社はこれを承認せず、Y社を買取人と指定した(これによりY社は、発行済株式6000株のすべてを所有することになる。)。
裁判所の判断
本件会社においては、Y社が過半数の3600株の株式を有し、経営権を有している。他方、本件株式は2400株で発行済株式総数の40%に当たり、その株主は株主総会の特別決議を拒否できるから、本件会社の経営に一定程度の影響を及ぼすことができ、しかも、X社からY社に本件株式が移動することによって、Y社は本件会社を完全に支配することができることになる。したがって、本件株式については、経営権の移動に準じて取り扱い、この場合に用いられる評価方式である純資産方式、収益還元方式を検討すべきである。また、本件会社では、配当を実施したことがなく、将来配当を行う予定はないのであるから、配当還元方式を採用する基礎に欠けていることが明らかである。
以上のとおり、本件会社は、創業してさほど年月が経過しておらず、資産に含み益がある不動産等は存在しないこと、ベンチャー企業として成長力が大きく、売上は順調に推移しており、その事業の進展の経緯からすれば、平成18年3月期、平成19年3月期と同様に、その後も同程度の利益が確実に見込まれるものである。以上を考慮すると、純資産方式を採用すると株式価値を過小に評価するおそれがあり、純資産方式は併用することを含め採用するのは相当ではなく、収益還元方式によって評価するのが相当である。
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