M&A・事業承継に強い、弁護士の鈴木陽介です。
会社の引継ぎにお悩みの経営者の方は、サンベル法律事務所にご相談下さい。会社の引継ぎ、承継には、M&A、事業承継に強い弁護士を関与させるべきです。
弁護士鈴木が力を入れているM&A・事業承継のコラムです。
株式評価について、代表者一族が80%以上の株式を保有する同族会社において、併用方式(配当還元方式60%、簿価純資産方式20%、収益還元方式20%)を採用した判例をご紹介します。内容は、中小企業庁の公表資料「
経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン(平成21年2月,中小企業庁)」に基づいており、弁護士鈴木が適宜編集等しています。
非上場株式の株価評価のコラム
株価評価の判例紹介のコラム
併用方式(配当還元6、純資産・収益還元各2)を採用した裁判例
東京高裁平成元年5月23日決定:事案の概要
本件会社は、洋装雑貨の販売及びその附帯業務を目的として、昭和47年1月に設立された株式会社であって、発行済株式総数21万株、資本金1億0500万円の会社である。
本件会社は、昭和57年7月期から昭和61年7月期まで毎期約63億円から約74億円の売上を計上し、約5000万円から約2億9000万円の税引後当期利益を上げ、業界において売上高第1位の地位にある。
純資産額は、逐年増加し、昭和61年7月期における純資産額は約18億円である。
株主配当については、年15〜30%の配当を実施している。
Aは、その所有する本件会社の株式1万9000株(約9%)を譲渡するに際し、昭和61年5月23日付け書面をもって同会社に承認を求めたが、同会社はこれを承認せず、B、C及びDを買取人と指定した。指定買取人であるBらは、いずれも本件会社の下請企業の代表取締役である。
裁判所の判断
1 配当還元方式を基本とすべきこと
前記認定事実によれば、本件会社は、経営は順調で今後の営業継続に特に問題はなく、近い将来における解散は予想されないこと、Bらの取得する株式は、発行済株式総数に対して合計でも9%に過ぎず、Bらが本件株式の取得により本件会社の経営を支配することはできないことが明らかであり、したがって、本件株式の取得者は、配当金の取得を主たる利益ないし目的とせざるを得ないから、右価格算定に当たって、基本的には配当還元方式を採用するのが相当である。
2 純資産価額方式、収益還元方式を併用すべきこと
しかしながら、配当還元方式を採用するに当たっては、将来の1株当たりの配当額を的確に算出することは甚だ困難であり、結局は過去の配当額に依存せざるを得ず、必ずしも正確性は期し難い。本件会社においては、前示のような資産額の増加状況からすると、収益の相当割合を社内に留保して資産を増加させることに重点がおかれ、配当額が比較的低く押さえられてきたことがうかがわれる。しかも、配当額は直接的・最終的には支配株主の意思により決定されるが、殊に本件会社のように同族会社的色彩が濃厚で少数者による支配が確立している会社では、右決定は経営担当者や支配株主の経営政策に依拠するところが多く、それ自体不確定要素の高いものである。他方、支配株主が全く恣意的に配当額を定めることは、会社経営の継続を前提とする以上許されず、会社の資産、収益の内容、程度を勘案せざるをえないし、支配株主の意思も不変ではないから、過去の配当額に多くを依拠する配当還元方式のみによることは不十分であり、純資産価額方式及び収益還元方式をも併用するのが相当である。
3 代表取締役の将来の本件株式取得の可能性
更に、商法204条の2による株式発行会社の株式譲渡の不承認及び譲渡の相手の指定は、当該会社が自己に不利益な株主を排斥するために認められた手段であり、その反面、当該会社の利益のためその限度で株主の株式譲渡の自由に制限を加えるものである。株式を自由譲渡するに当たっては、譲受人の意思がその価格の決定に大きく影響するところ、本件株式数は少数株主権の行使を可能とするものであり、本件会社がAの譲渡予定者を忌避したことは右譲渡予定者が単に配当利益の取得のみに関心を抱くものでないこと、また本件会社とBらとの前示の関係からすると、本件会社代表取締役が将来において本件株式を取得する可能性が少なくはないことが推認される。
4 結論:配当還元6、簿価純資産2、収益還元2
以上の事情を斟酌すると、三方式併用の割合は配当還元方式を6、簿価純資産方式及び収益還元方式を各2とするのが相当である。
会社の引継ぎ、M&A、株式評価、株価評価に悩んでいる中小企業の経営者の方は、お電話下さい。M&A・事業承継に強い弁護士が、解決方法などをアドバイスします。