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株式評価について、併用方式(配当還元方式50%、時価純資産方式50%)を採用した判例です。会社の引継ぎにお悩みの方は、中小企業のM&A・事業承継に強い弁護士にご相談下さい。

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7 M&A、事業承継の株価評価に関する判例(7)

M&A・事業承継に強い、中小企業のための弁護士です。

会社の引継ぎにお悩みの経営者の方は、サンベル法律事務所にご相談下さい。会社の引継ぎ、承継には、M&A、事業承継に強い弁護士を関与させるべきです。


弁護士鈴木が力を入れているM&A・事業承継のコラムです。

株式評価について、役員報酬を配当金の変形とみなしたうえで、併用方式(配当還元方式50%、時価純資産方式50%)を採用した判例をご紹介します。内容は、中小企業庁の公表資料「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン(平成21年2月,中小企業庁)」に基づいており、弁護士鈴木が適宜編集等しています。

 非上場株式の株価評価のコラム

1  株価評価:収益方式 純資産方式 比準方式
2  収益方式による株価評価(1):収益方式の種類
3  収益方式による株価評価(2):収益方式選択の留意事項
4  純資産方式による株価評価とその留意事項
5  比準方式による株価評価とその留意事項
6  国税庁方式による株価評価とその留意事項
7  併用方式による株価評価と評価方式に関する裁判例

 株価評価の判例紹介のコラム

1  純資産方式を採用した判例
2  配当還元価額を類似会社の配当性向で修正した判例
3  併用方式(純資産7、収益還元3)を採用した判例
4  ゴードンモデルを採用した判例
5  併用方式(配当還元6、純資産・収益還元各2)の判例
6  併用方式(配当還元方式7、時価純資産方式3)の判例
7  併用方式(配当還元方式5、純資産方式5)の判例
8  株式評価の方法に関する考え方を論じる判例
9  DCF方式、ベンチャー企業の株式評価の判例
10 新株発行の株価評価の判例
11 類似業種比準方式を併用した判例
12 新株発行の差止仮処分申立事件の株式評価の判例


併用方式(純資産方式5・配当還元方式5)を採用した裁判例

 千葉地裁平成3年9月26日決定:事案の概要

 本件会社は、貨物運送業を目的として、昭和48年8月に設立された株式会社であって、発行済株式総数10万4000株、最終の貸借対照表(平成元年3月31日現在)の純資産額1億4075万0566円である。
 本件会社の昭和61年3月期から同63年3月期までの売上高及び税込利益の推移は、次のとおりである。配当率については、いずれの期においても15%(1 株当たり75円)である。
〇 昭和61年3月期売上高17億4000万円 税込利益4300万円
〇 昭和62年3月期売上高21億7500万円 税込利益6000万円
〇 昭和63年3月期売上高30億5000万円 税込利益8100万円
 Aは、その所有する本件会社の株式1万0400株(10%)を譲渡するに際し、平成元年12月15日、同会社に承認を求めたが、同会社はこれを承認せず、Bを買取人と指定した。

 裁判所の判断

1 株式の評価方法についての考え方

 譲渡制限株における株式買取請求の制度は、取締役会が株式譲渡を承認しないために投下資本回収の道を封ぜられることへの救済手段であるから、買取代金額は、譲渡が承認された場合に得られたはずの売買代金額に見合うものであることが理想的である。
 しかし、その金額が明らかにされない場合、買取請求者が主張する金額の相当性に疑問がある場合及びなんらかの特別の事情により合理的でない代金額が約定されている場合等には、合理性のある代金額を決定せざるを得ない。
 この売買代金の算定方式として、純資産価額方式、類似会社(又は類似業種)比準方式、配当還元方式、収益還元方式及び取引先例価格方式などがある。
 純資産価額方式には、簿価純資産価額方式と時価純資産価額方式とがあり、前者は、簿価純資産が名目資産であるため、貨幣価値の低下又は地価の高騰などに起因する名目資本と実質資本の乖離が大きい場合や、過去の経営実績が悪かったため繰越欠損金は多額であるが最近の業績は著しく改善されているというような場合には適当ではなく、後者は、企業の純資産を時価に評価替えして総負債を控除するもので、事業継続を前提とする会社の評価については、これのみによることは適切ではないとされる。
 類似会社(又は類似業種)比準方式は、比較の対象として適切でかつ取引事例のある会社(株式の取引価格の相場が容易に知られうる会社)の選定が可能な場合に、比準に当たっての修正が適切に行われる限り、合理的な算定方式とされる。
 配当還元方式は、将来期待される配当金額に基づいて株価を算定するので、長期にわたる配当の予測を要するが、これが的確になされうる限り、売買当事者が配当のみを期待する一般投資家である場合、最も合理的な算定方式であるとされる。
 収益還元方式は、将来期待される当該企業の収益に基づいて算定するもので、経営支配株主又は経営参加株主にとっては適当な算定方式であるとされる。
 取引先例価格方式は、市場性のない株式の取引先例が株式の交換価値を適正に反映していることは稀であるとされる。

2 本件での類似会社比準方式

 そこで、本件株式の売買価格の算定方法について検討する。
 審理の結果によれば、次の事実(「事案の概要」で摘示した事実)が認められる。
 右の事実に基づいて考える。
 本件会社は、業種としては陸上貨物運送業に属するが、空港に関係のある運送を業とする点で特殊性があり、類似会社比準方式によることは困難である。

3 本件での配当還元方式

 本件会社の利益配当率は直近の3年間で一定しているので、会社の業績が年々伸長している事実をもあわせ考えると、将来においても同様の配当率を維持できる公算が高い。
 したがって、配当還元方式に適する場合であると考えられるが、本件株式数が発行済株式総数の10%に相当することから、譲受人において会社の役員として経営に参加できる可能性もあり、その場合に得られる役員報酬は年額78万円の株式配当金より相当多額となることを考慮すると、配当のみを期待する一般投資家の場合とはやや異なる面がある。
 したがって、配当還元方式のみによって本件株式の売買代金を決定することは、適当ではない。

4 本件での収益還元方式

 次に、本件株式の発行済株式総数に対する割合から会社経営に参加できる可能性がないではないとしても、10%では経営支配株主とはなり得ない場合であり、収益還元方式に適する場合ではない。

5 本件での取引先例方式

 取引先例方式については、審理の結果によれば、昭和57年4月から同62年3月までの間に本件会社の株主が取締役の承認を得て株式を譲渡した事例が5件あるところ、その売買株数は4000株2例、3000株1例、600株2例であって、売買代金はすべて額面どおりの1株500円であったことが認められるけれども、非上場株で、経営参加も期待できない右の程度の株式数では、新株主は配当に期待する他はないから、額面金額で売買されたのは当然ともいえ、右代金が本件会社の実質資本を考慮した上で決定されたなどの事情は格別うかがわれないから、適切な取引先例であるかどうかは疑わしい。
 それゆえ、取引先例方式によることはできない。
 もっとも、この先例は、経営実績の良好な会社の株式であっても、上場の時期が近いとか特別な事情があって高額で買受ける買主が現れない限り、非上場株式をその客観的価値相当額で売却することは困難であることを示すものといえる。

6 本件での純資産価額方式

 純資産価額方式は、株式の客観的価値を算定する方法として一定の合理性をもち、 買取価額の決定は会社の資産状態その他一切の事情を斟酌して決定すべき(商法204条ノ4第4項)ものとされることからも、買取価格の決定に当たり第一に考慮されるべき方式であるといえる。
 そして、本件会社のように資産として土地を保有し、かつ後述するとおり土地の簿価と時価の乖離が著しい場合には、簿価によって資産の価額を算定するのは相当ではないから、簿価純資産価額方式ではなく時価純資産価額方式が適当である。
 また、時価純資産価額方式による場合にも、事業継続を前提とする評価であるから、会社の解散を想定して全資産を換価した額から清算所得に対する法人税を控除した額に基づく残余財産分配額によるのは相当ではなく、全資産の評価時点における市場価額によるのが相当である。

7 本件での株式評価方法:併用方式

 譲渡制限株の買取価額は、請求人が現実に手にすることができたであろう売買代金に代わるものであるから、買取価額の決定に当たっては、株式の譲渡が請求どおり承認された場合に請求人が手にすることができたであろう売買代金額を考慮することが必要である。
 しかしながら、本件においてAが譲渡の相手方に売り渡した場合の代金額は明らかではないし、Aが本件株式の純資産価値で売却できた可能性を認めるに足りる資料もなく、更に本件会社が近い将来解散して株式の解散価値を現実化する可能性も乏しい。そして、本件株式の所有によって請求人が現実に得た経済的利益が配当金及び役員報酬であることは前述のとおりである。
 このような事情を総合すれば、本件買取代金額は、請求人が支払を受けた役員報酬をも配当金の変形とみなした上で、配当還元方式による株式価格と純資産価額方式による株式価格の平均値をもって買取代金額と定めるのが相当である。

8 時価純資産方式を採用

 純資産価額については、本件会社が近い将来解散する可能性に乏しい以上、全資産の評価時点における客観的価額から負債を減じたものによるべきであるが、現実に資産の客観的価額を把握することは困難なので、原則として評価基準時に直近の決算期末の貸借対照表に記載された金額によることとし、そのうち簿価と時価の乖離が著しいこと顕著であるところの土地の価額についてのみ鑑定によって認められる客観的価額によることとする。


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弁護士鈴木陽介書籍配当方式

書籍:歯科医院の事業承継とM&A

学建書院,2016年