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株式評価の方法(純資産方式、収益方式、配当方式、比準方式、併用方式)に関する判例の考え方です。会社の引継ぎにお悩みの方は、中小企業のM&A・事業承継に強い弁護士にご相談下さい。

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8 M&A、事業承継の株価評価に関する判例(8)

M&A・事業承継に強い、弁護士の鈴木陽介です。

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弁護士鈴木が力を入れているM&A・事業承継のコラムです。

譲渡制限株式の売買価格決定申立事件での株式評価の方法(純資産方式、収益方式、配当方式、比準方式、併用方式)に関する考え方を述べた判例をご紹介します。内容は、中小企業庁の公表資料「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン(平成21年2月,中小企業庁)」に基づいており、弁護士鈴木が適宜編集等しています。

 非上場株式の株価評価のコラム

1  株価評価:収益方式 純資産方式 比準方式
2  収益方式による株価評価(1):収益方式の種類
3  収益方式による株価評価(2):収益方式選択の留意事項
4  純資産方式による株価評価とその留意事項
5  比準方式による株価評価とその留意事項
6  国税庁方式による株価評価とその留意事項
7  併用方式による株価評価と評価方式に関する裁判例

 株価評価の判例紹介のコラム

1  純資産方式を採用した判例
2  配当還元価額を類似会社の配当性向で修正した判例
3  併用方式(純資産7、収益還元3)を採用した判例
4  ゴードンモデルを採用した判例
5  併用方式(配当還元6、純資産・収益還元各2)の判例
6  併用方式(配当還元方式7、時価純資産方式3)の判例
7  併用方式(配当還元方式5、純資産方式5)の判例
8  株式評価の方法に関する考え方を論じる判例
9  DCF方式、ベンチャー企業の株式評価の判例
10 新株発行の株価評価の判例
11 類似業種比準方式を併用した判例
12 新株発行の差止仮処分申立事件の株式評価の判例


併用方式(配当1、純資産1、収益2)を採用した裁判例

 札幌地裁平成16年4月12日決定:事案の概要

 本件会社は、酸素ガス製造等を目的として、昭和4年に合資会社として設立され、その後昭和34年に株式会社に組織変更された会社であって、資本金は8000万円、発行済株式総数は16万株である。
 本件会社の株主構成は、次のとおりである。
〇 東京中小企業投資育成株式会社5万3500株
〇 合資会社Z(代表者が94%を有する会社)5万1300株
〇 本件会社の代表者の同族関係者3万5700株
〇 A1万0500株
 本件会社が営む事業の業界は、典型的な独占市場であり、本件会社は、その中で長期安定的な地位を確保し、高い利益率を維持して、内部留保を順調に蓄積してきた。株主に対する配当についても、ここ十数期の毎期、12%(1株当たり60円)の安定した利益配当を継続している。
 Aは、その所有する本件会社の株式1万0500株(6.56%)を譲渡するに際し、平成14年1月28日付け書面をもって同会社に承認を求めたが、同会社はこれを承認せず、自らを買取人と指定した。

 裁判所の判断

1 株式の評価方法に関する知見

 非公開株式会社の株式の評価法には、純資産方式、収益方式、配当方式、比準方式、併用方式がある。
1  純資産方式
 純資産方式は、企業のストックとしての純資産に着目して、企業の価値、株価等を評価する方式である。この方式は、企業の静的価値の評価であり、貸借対照表をもとに評価するため、その計算が理解されやすく、〔1〕企業が清算手続中である場合又は清算を予定している場合、〔2〕企業経営が順調でなく、利益が少ないか又は赤字体質である場合、〔3〕過去に蓄積された利益に比し、現在又は将来の見込み利益が少ない場合、〔4〕資産の大部分が不動産であり、かつ、清算が容易に行えるような場合に適用される。
 純資産方式には、簿価純資産法と時価純資産法があり、後者は更に再調達時価純資産法、清算処分時価純資産法、国税庁時価純資産法に分けられる。
2  収益方式
 収益方式は、企業のフローとしての収益又は利益に着目して、企業の価値、株価等を評価する方式である。この方式は、企業の動的価値を現し、継続企業を評価する場合、理論的に最も優れた方法である反面、評価が将来収益に全面的に依存しているため、その根拠が不確実となる欠点を持っている。収益方式は、収益を利益として展開する収益還元法と収益を資金上の収入として展開するDCF法(ディスカウンテッドキャッシュフロー法)とに分類される。
3 配当方式
 企業の利益処分のフローとしての配当に着目して、企業の価値、株価等を評価する方式である。この方式は、主として少数株主の株式評価方法として用いられる。配当方式には、配当還元法とゴードンモデル法があり、前者は将来の配当に着目して株価を算定する方式、後者は、企業が獲得した利益のうち配当に回されなかった内部留保額についても、再投資によって将来の利益を生み、配当の増加を期待できるものとして、これを加味した株価の算定をする方式である。
4 比準方式
 評価の対象となった株式会社(評価会社)と業種、規模等が類似する公開会社(類似会社)又は同じ業種の公開会社の平均とを比較して、会社の価値、株価等を評価する方式である。この方式は、評価の対象となった株式会社が上場企業に匹敵する規模である場合や、実際の売買事例が客観性を持つ場合には有力であるが、そうでない場合は説得力に欠ける面を持っている。比準方式には、取引事例法、類似会社比準法、類似業種比準法がある。類似業種比準法(国税庁類似業種比準法)は、課税の公平性と簡便性の観点から政策的に制定された方式である。
5 併用方式
 各種の評価方式を一定のルールで組み合わせて、会社の価値、株価等を評価する方式である。

2 本件における株式の評価方法の選択

 まず、比準方式を本件で採用することの可否について検討すると、本件会社の株式が過去10年間に売買された事例はないから、取引事例法は本件では採用しない。また、評価会社と事業に類似性が認められる公開会社はないから類似会社比準法は採用できず、類似業種比準法は国税庁において課税の公平性と簡便性の観点から政策的に採用されている方式であり、売買を前提とした株式評価に用いるのは相当でないから、いずれも本件では 採用しない。
 そこで、その余の方式について検討すると、株式の売買を相対で行う場合、通常は、いずれか一方の交渉力が他方を上回るのが一般的であるが、本件は、商法の規定により株式の買取価格を決定するものであるから、双方対等の立場で評価すべきである。
 そして、売手の立場からは、株式の売買は株主の投資回収の方法であり、主として経済的利益の補償という観点からその算定方式を考慮すべきであるところ、株式の売買は、売手がこれまで顕在的に行使していた利益配当請求権と潜在的に有している残余財産配当請求権を換価するという側面がある。そこで、売手の立場から最も合理的な評価方式は、配当方式と純資産方式の併用方式であり、この方式に差をつける合理的な根拠は見出しにくいため、それぞれの平均値とするのが相当である。
 他方、買手の立場からは、静的な評価方式である純資産方式を採用するのは妥当ではない。また、本件株式の買手は本件会社自身であり(自己株式を取得することになる。)、配当を期待するものではないから、配当方式を採用することも相当ではない。継続企業の動的価値を現す最も理論的な方法は、収益方式であり、買手の立場からは収益法を適用して評価するのが相当である。評価が将来収益に全面的に依拠しており、その根拠が不確実になる欠点を持っているため、評価会社の過去の財務数値を慎重に検討した上で、買手の立場から収益法を適用して評価するのが合理的である。
 以上の売主の立場と買主の立場を総合的に勘案するためには、売主と買主を双方対等の立場にあることを前提として、売主の立場からの相当な評価方式と買主の立場からの評価方式を1対1で評価価格に反映させるのが相当である。そうすると、本件では、全体を1とすると、
 配当方式:純資産方式:収益方式=0.25:0.25:0.5
の併用方式を用いるのが相当である。
 なお、本件会社は、東京中小企業投資育成株式会社の投資引受価格を基にした株式価格をも、本件株式の算定の基礎とすべきである旨主張する。しかしながら、同社の投資引受価格は、上記2の各株式評価方式と比較して、一般的に客観化された株式評価方式として定着しているとまでは認められないから、これを株式算定の基礎とするのは相当でないというべきである。

3 本件における具体的な算定方式

 配当方式の中では、配当還元法とゴードンモデル法のいずれを採用すべきかが問題となる。配当方式のみで株式の評価価格を算定する場合には、企業が獲得した利益のうち配当に回されなかった内部留保額についても、配当の増加を期待できるものとしてこれを加味するゴードンモデル法を採用するのが相当とも思料されるが、上記のとおり、本件では、配当方式、純資産方式及び収益方式の併用方式を採用する以上、配当方式の中では配当還元法を選択するのが相当である。配当還元法によれば、本件株式価格は600円となる。
 純資産評価方式の中では、本件においては、資産の含み益の影響を無視することができないため、時価純資産法を採用し、時価純資産法のうち、継続企業を前提とする再調達時価純資産法を用いるのが相当である。
  収益方式の中では、会計上の利益をキャッシュフローとするのではなく、実際の収益をキャッシュフローとするのが、一般には株式の価値を正確に反映することが可能であるから、DCF法(ディスカウンテッドキャッシュフロー法)を採用するのが相当である。


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弁護士鈴木陽介書籍判例

書籍:歯科医院の事業承継とM&A

学建書院,2016年