M&A・事業承継に強い、弁護士の鈴木陽介です。
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弁護士鈴木が力を入れているM&A・事業承継のコラムです。
株式評価について、類似業種比準方式を併用した判例、株主代表訴訟で併用方式(時価純資産方式2、収益還元方式1)を採用した判例をご紹介します。内容は、中小企業庁の公表資料「
経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン(平成21年2月,中小企業庁)」に基づいており、弁護士鈴木が適宜編集等しています。
非上場株式の株価評価のコラム
株価評価の判例紹介のコラム
類似業種比準方式を併用した裁判例
大阪高裁平成11年6月17日判決:事案の概要
本件会社は、タクシー、貸切バス事業を目的として、昭和33年に設立された株式会社であり、資本金は6500万円、発行済株式総数は10万株である。
本件会社は、株主総会の特別決議を経て、昭和61年8月20日、特に有利な発行価額である1株1000円で、記名式普通額面株式2万株を発行した。
本件会社の株主であるAらは、上記新株発行は会社支配権の確立を目的としたものであり、取締役の任務懈怠・違法行為に当たるなどと主張し、本件会社の取締役に対して損害賠償の請求をした。
裁判所は、上記新株発行について、取締役としての任務懈怠があり、任務懈怠について悪意又は重過失があることを認定したうえで、損害額の算定について、下記のとおり判示した。
裁判所の判断
1 本件で妥当な株式評価方法:併用方式
株式の適正価格を算定するに当たっては、通常、配当還元方式・収益還元方式・純資産価額方式・類似業種比準方式が適宜採用されている。
配当還元方式は、会社支配の目的を有しない少数一般株主には適合するが、特定の第三者割当を予定する場合や、本件会社のように配当が経営者の意思によって左右される会社には適合しない。
収益還元方式は、将来各期に期待される利益を一定の利回りで還元計算するものであるが、会社の利益の多くは内部留保されることが多く、利益の増加が直ちに株主の収益の増加に結び付くものではない点で、会社の利益のみを基準とする方式は妥当とはいえない。
純資産価額方式には、帳簿価額による方法と時価による方法とがあり、時価にも会社解散を前提として処分価額と企業継続を前提とする価額とがあるが、新株発行時の適正価額を算出するには、企業継続を前提とした時価を基準として算定するのが相当である。
類似業種比準方式は、非上場株式の評価方法として広く利用されているが、各業種・規模・利益・配当額等につき標本となるべき企業の選定に困難が伴う。
従って、本件においては、純資産価額方式と類似業種比準方式の双方を用い、両方式を一定の比率で按分して株価を算定するのが相当と考える。
2 裁判所が認定した事実
証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
昭和59年9月、本件会社が○○に対し新株を割り当てた際、同年3月期(第26期)の決算に基づき類似業種比準方式に従って算定した株価は1株当たり3907円であった。
本件会社の昭和61年3月期(第28期)の決算に基づき類似業種比準方式に従って算定した株価は1株当たり2617円であった。
右昭和59年3月期の決算に基づき、公認会計士△△作成の鑑定評価書を基礎に時点修正等を行った後の本件会社の評価後純資産は、次のとおり1株当たり9023円となる。
取締役らは、純資産価額方式によるときは帳簿価格によるべきで時価に修正評価すべきでないと主張するが、同方式は会社の実質的価値を評価して株価を算定するものであるから、時価評価が可能な場合にはそれによるのが相当である。右主張は採用できない。
3 結論:1株4752円
以上のように、本件会社の昭和61年3月期の決算を基礎に株価を算定すると、類似業種比準方式では1株当たり2617円であり、純資産価額方式では1株当たり9023円となるので、前者を2、後者を1の割合で按分するのが相当と認められ、そうすると、1株当たりの株価は4752円となる。
株主代表訴訟で株式評価に併用方式を採用した裁判例
大阪地裁平成15年3月5日判決:事案の概要
本件会社は、大正8年に設立された殺虫剤等の製造販売業を営む株式会社であり、資本金は9660万円、発行済株式総数は193万2000株、純資産額は285円である。
本件会社は、5万8000株(約3%)を所有する株主Aから当該株式を代金10億9794万円(1株当たり1万8930円)で自己株式として買い取ったが、本件会社の株主Bは、当該自己株式の取得は違法なものであるから、自己株式の取得により本件会社に生じた損害について、当該自己株式の取得時の取締役を被告として、株主代表訴訟を提起した。
裁判所は、上記自己株式の取得が違法であり、その当時の取締役に損害賠償責任があることを認定したうえで、損害額について、下記のとおり判示した。
裁判所の判断
1 株式の評価方法:併用方式
評価方式は、時価純資産方式による評価額2、収益還元方式による評価額1の各割合で加重平均する併用方式を採用する。
本件自己株式の取引当事者であるA及び本件会社は、共に被告ら○○一族が支配権を有する会社であり、本件自己株式の譲渡は、支配株主間における株式移動にほかならないから、本件自己株式の価格は企業支配株式として評価することが相当であり、評価方式としては、時価純資産方式及び収益還元方式の併用方式によるべきである。そして、本件会社が、その総資産のうちに多額の営業に直接関わりのない資産を有しており、かつ、営業用資産とそれ以外の資産とを明確に区分することができないことを勘案すれば、時価純資産方式による評価に重点を置くことが相当であり、時価純資産方式による評価額2に対し、収益還元方式による評価額1の割合で加重平均することが相当である。
2 時価純資産方式の評価額
時価純資産価額方式による評価額は、1株当たり1万8857円である。
3 収益還元方式の評価額
収益還元方式による評価額は、1株当たり5494円である。
本件会社では、価格時点当時、投資計画まで含めた利益計画を策定していないため、将来キャッシュフローの予測が極めて困難であることから、ディスカウンテッド・キャッシュフロー法(DCF法)を採用せず、1株当たりの予想税引後利益を資本還元率で除して1株当たりの評価額を算出する収益還元方式を採用する。
まず、1株当たりの予想税引後利益について、価格時点を含む過去5期間の税引前利益から税負担額を控除した額の平均値によって算出すると、375.8円となる。
次に、資本還元率については、長期利子率に危険負担率(リスクプレミアム)を加算する方法を採用する。そして、長期利子率を過去10年間(平成5年から平成14年まで)の長期プライムレートの平均値により2.63%とし、リスクプレミアムを4.21%(将来収益が不確実であるリスク2.63%に市場性を欠くことによるリスク1.58%を加算したもの)とするのが相当であるので、資本還元率は、6.84%となる。
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