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ネットワーク事業会社がプロバイダー事業に進出し失敗した実例です。経営不振に悩む経営者の方は、会社の倒産、破産に強い弁護士にご相談下さい。

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57 情報通信業の経営の失敗(1):プロバイダー事業の失敗

会社の倒産、破産に強い弁護士の鈴木陽介です。

ここでは、ネットワーク事業会社がプロバイダー事業に進出し失敗した実例をご説明します。経済産業省の公表資料「ベンチャー企業の経営危機データベース」に基づいており、弁護士の鈴木が適宜修正編集等しています。

なお以下が会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧です。ご活用いただければ幸いです。
・ 会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧


会社経営の失敗の概要


 ネットワーク事業会社がプロバイダー事業に進出し失敗

ネットワーク事業、サーバー事業など安定した経営を展開していたが、セキュリティコンサルティング事業やプロバイダー事業など新事業進出に乗り出し多角化に失敗。発生した投資負担が経営を圧迫した。地域の情報化とその対価が地域に還流する事業の創造という理想を掲げ、甘い目論見でがむしゃらに走る社長を止める社員はいなかった。

 企業プロフィール

業種 情報通信業
従業員数 7名(2007年3月現在)
設立・創業 設立2001年4月・創業2001年4月
事業分野 インターネット(ネットワーク事業、サーバー事業、コンサルティング)
事業概要 ネットワーク事業(専用のスペースを持ち、サーバーホスティングを行い、全国のプロバイダーへインターネット接続サービス)を主力とする。この他、レンタルサーバー事業、コンサルティングにも力を入れている。
社長の年齢 30歳代
創業時の属性
(職業)
会社勤務(会社役員)


会社経営の失敗の詳細


 結論

本業のネットワーク事業、サーバー事業は順調に推移していたが、企業向けセキュリティコンサルティング部門の立ち上げや学生向けプロバイダー事業など、多角化を推進した。しかしながら、セキュリティコンサルティングは人材への先行投資負担から赤字に転落。学生向け無料プロバイダー事業は営業所を開設し、学生の確保を積極的に進めるものの、目標としていたユーザー数の獲得に至らず撤退を強いられた。結局、業容の拡大を狙った多角化が業績悪化を招いた。

 設立から成功までの経緯

当初学者になることを目指していたが、大学院在籍中に病気で倒れ、経済的な問題もあり断念。大学院博士課程を修了後、大学の同級生である妻(現在は当社の専務)と共に起業を決意、1999年システム開発・サーバーレンタル業を個人創業した。
PC1台で通信事業を開業できる「ミニ通信事業開業パック」を開発、地域唯一の地域系電話会社として通話料を原資とした各種インターネットサービスを展開。当初はネット管理システムの開発・販売を主業務とした稼動であり、地域有力企業からの受注実績がみられた。しかしF社から回線卸業務の営業譲渡を受けた後は電話業者としての優位性を活かして、地場プロバイダーを対象とした回線卸業中心の稼動にシフトした。業績も順調なスタートとなり2004年7月期は売上1億5,211万円を計上し、採算ラインも確保した。

 失敗に至る経緯

2004年頃までは順調に推移していたが、その後業容の多角化を行ったことが裏目に出て業績悪化を招くことになった。まず、2005年に業績拡大を目指して企業向けセキュリティコンサルティング部門を立ち上げ、売上は1億9,757万円で増収となったが、人材への先行投資負担から808万円の赤字を計上。2006年には社運をかけて大手総合商社等と提携し学生向けプロバイダー事業を展開した。しかし、マーケティングの甘さから学生の支持を得られず、目標としていた3万件のユーザー獲得に遠く及ばず、また営業所開設費用なども嵩み5千万円超の期間欠損を計上、累積赤字は1億円にまで膨らんだ。

 対処と結果

経営立て直しのためプロバイダー事業からは撤退、人員体制もパートも含めると40名となっていたが、10名体制にまで縮小した。事業内容も元々利益の出る部門であるネットワーク事業、サーバー事業、コンサルティング業務に特化するなど、合理化を進めた。合理化が浸透し損益分岐点が下がっており、2007年2月、3月はようやく黒字に転じた。
2007年7月の業績見通しとしては売上2億3,000万円内外を見込んでおり、赤字幅は3,000万円程度にまで縮小できる見通しである。

 原因

(1) 特性

社長に進言できない社内体制
経営者は地域の情報化とその対価が地域に還流する事業の創造を目指した。また会社は挑戦し続けるベンチャーを標榜していただけに、無理な新事業進出による多角化に対して社長に苦言を呈する社員はいなかった。

(2) 要因

マーケティング戦略の甘さ
ネットビジネスに対する需要増という追い風の他、学生向けプロバイダー事業として会員数の目標は3万件に置いた。しかし同業者との競合が激しいうえ、ブランド力のなさから無料というのが逆に怪しまれ契約数は5,000件にも及ばなかった。発生した1億円といわれる投資負担が経営を圧迫した。

 経営判断の問題点

学生向けプロバイダー事業を展開する前の2005年期の決算内容は売上2億円弱に対して800万円の赤字であった。この時点で5,000万円を超える累積赤字を抱えており、総額1億円に及ぶ投資をするにしては経営基盤が弱すぎた。また営業面は大手総合商社、広告代理店と提携したこともあり会員獲得目標は強気の3万件とした。無料としたのは3万件の大学生のデータベースを構築すると就職サービスとセットで利用できるという目論見があったためである。しかし元々技術職が多く営業力は弱かったうえ、知名度もなく、学生はヤフー等に流れて契約数は5,000件にも届かなかった。この程度のデータでは就職サービスとのセットでの利用という目論見もはずれた。期待値のみが先行し、冷静なニーズ・市場分析が欠けていた。

 背景

学生向けの無料プロバイダー事業は、もともと営業力が弱かったにもかかわらず、ベンチャー企業としては無謀ともいえる3万件の会員獲得を目指した。大手の商社、広告代理店と提携し、銀行からも1億円近い借入を得たことで、強力なバックアップ体制が築かれたとの思い込みが生んだものと考えられる。

 得られた教訓

学生向けプロバイダー事業を無料サービスとし、売上は大学生のデータベースをつくり就職サービスとセットで得るというビジネスモデルは失敗だったと考えられる。この形にすると最低でも1万件に及ぶユーザーを獲得しないと利益が出ないからである。5,000件ほどのユーザーは獲得しており、有料の形にしていれば、また違った結果が出ていたかもしれない。
学んだことは、新規事業には失敗がつきものであり、投下資金は内部留保した資金の比率を高めて行うのがベストということを痛感した。今回の学生向け無料プロバイダー事業については金融機関より1億円を調達し約1年間にわたり推進したが、結局無駄に終わった。内部留保した資金であれば経営悪化までに至らななかった。累積赤字は1億円を超え、有利子負債比率は70%にまで膨らむ結果となった。また学生の嗜好をつかみきれなかったことから、マーケティングリサーチの重要性も再認識した。

 後日談

新規事業に進出する前はやや放漫経営気味だったと自らを見直し、この事業に失敗してからは経営の効率化を推進した。人員は最小限にとどめ、またどんな物品を購入しても必ず複数の業者から見積もりをとるなど経費は徹底的に抑えた。こうしたことから、現在はネットワーク事業、サーバー事業に特化しており月次では利益の出る体質となっている。今後は自社で蓄積した内部資金で新規事業に取り組みたいと話している。

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