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73 小売卸売業の経営の失敗(7):専務の不正による失敗

会社の倒産、破産に強い弁護士の鈴木陽介です。

ここでは、専務の不正による経営失敗の実例をご説明します。経済産業省の公表資料「ベンチャー企業の経営危機データベース」に基づいており、弁護士の鈴木が適宜修正編集等しています。

なお以下が会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧です。ご活用いただければ幸いです。
・ 会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧


会社経営の失敗の概要


 経営を任せていた専務が不正行為を行い資金ショート

経営管理を一手に任せていた利益追求主義の専務によって、製品に契約違反となる材料を混入して納品していたという行為が明るみとなった。代表者として把握すべき社長は現場に出ることがほとんどで、取引の大部分はノータッチの状況であった。取引先からは大きなペナルティーを課せられ、資金繰りが切迫することとなった。

 企業プロフィール

所在地 三重県
業種 小売・卸売業
従業員数 4名
設立・創業 設立:平成3年3月/創業:平成3年3月
事業分野 その他(冷凍魚加工・卸売)
事業概要 冷凍魚の加工及び卸売を主力とし、平成3年の設立から間もなく鮭の特殊冷凍技術を開発した。この特殊技術はワンフローズン(一度の冷凍のみ)で鮭を冷凍加工できるもので、素材の鮮度を活かした商品提供ができる。国内では当社しか扱っておらず、高い付加価値を発揮できる強みがある。
社長の年齢 50歳代
創業時の属性
(職業)
会社勤務(中途退社)


会社経営の失敗の詳細


 結論

主力販売先であったLフーズを通じた弁当業界大手との取引において、低価格の材料を混入すれば利幅が大きくなることから、別途調達した低価格の鮭を混入して納品していたことが発覚した。その結果、大きなペナルティーを背負わされることとなった。

 設立から成功までの経緯

地元スーパーに対して、より良い商品を提供することを目的に独立創業した。鮭の特殊冷凍技術の開発に成功し、市場からの需要が増加して売上規模を拡大した。平成7年頃に工場を新設し、以降は増収基調が続いた。主力販売先であったLフーズを通じた弁当業界大手との取引増加もあり、平成13年期には売上高10億円を突破、近い将来には売上高20億円に迫る勢いであった。

 トラブル・失敗・課題に至る経緯

代表者は生産現場主義で、経理面等は当時の専務に任せていた。主力取引先のLフーズとは、加工賃を得られる手堅い取引であったが、ある時期に鮭の相場が大きく下がり、他から調達した材料を混入すると利幅が大きくなる事に注目した専務が、代表者の許可を得ずに低価格品の混入を行なっていた。この取引においては専務が主導権を持って行っており、代表者はほぼノータッチの状況であった。代表者が認知した時点では既に受注先とのトラブルになっており、そのペナルティーとして取引量を減らされ、金銭的なペナルティーも提示された。問題を起こした専務は当社から離れ、責任は当社が背負うこととなった。間もなく資金繰りが厳しい状況となり、金融機関へ支援要請も行ったが資金供給の協力が得られず民事再生法を申し立てるに至った。

 対処と結果

急速に事態が悪化したことから、対処をする間もなく倒産に追い込まれた。民事再生法を申し立てたことで経営は存続できたが、事業規模もかなり縮小しての再スタートとなった。専務は当社を離れ、Lフーズを含む大口受注先2社の取引を引き継いで独立した。

 原因

(1) 特性

経営管理を専務に任せきりにしていた
代表者が生産現場主義で、経理面だけでなく取引も全て専務に任せきりで、経営者として把握しきれていなかった。専務は後継者的な存在であったが、親族ではなく、経営陣の経営に関する意識の統一がなされていなかった。

(2) 要因

利益追求にとらわれすぎた
代表者が品質を重視する職人気質なのに対し、経理面を扱う専務は利益追求型の面があった。契約に反した材料(安価な鮭)を混入するという行為に関して、代表者が認知していれば止めていたが、儲けにこだわる専務が取引を管理していたために、認知できない環境であった。

 経営判断の問題点

経営の指揮を執るべき代表者が現場を重視したため、経理など財務面は専務に任せきりになっていた。そのため収益追求に対し代表者と専務の間に気が付かないうちに温度差が発生していた可能性がある。専務は後継者的な存在でありながら親族ではないため、責任が軽い立場でもあったが、専務に権利が与えられすぎていた。

 背景

エンドユーザーである消費者の目が厳しくなるなか、小売業者間での競争が非常に厳しくなっている。そのため当社が納品する取引先各社からも相当なコストダウン要請があり、合わせて品質向上も重視された。売上が増えても利益は伸びず、利幅確保が厳しい状態であった。

 得られた教訓

幅広い視野を持って業務を見渡していれば、専務が行った行為を察知して瀬戸際で止められたかもしれない。オーナー企業でありながら、代表権を持つ代表者と親族でない専務の2人が陣頭指揮を執る体制であった。専務とは長い付き合いであり信頼しきっていたため、まさか違反行為を行うとは思っていなかったという。
取引先との契約に反する行為を行ったことから相応のペナルティーを受けるのは仕方ないことである。特に食品業界では品質が重視される時代であり、認知していなかったとはいえ不祥事に際して経営者が負う責任は大きい。

 後日談

経営規模は年商2〜3億にまで縮小し、不動産も一部処分されかなり規模を縮小しての運営となっているが、堅実な経営を続けている。専務が担当していた顧客は離れていったが、代表者が担当していた企業は古くからの信頼もプラスに作用して取引を続けてくれている。

会社の経営不振、破産、倒産に悩んでいる経営者の方は、お電話下さい。会社の再生、倒産、破産に強い弁護士が、適切な対応をアドバイス・サポートします。


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学建書院,2016年