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7 製造業の経営の失敗(7):安易な起業での失敗

会社の倒産、破産に強い弁護士の鈴木陽介です。

ここでは、安易な起業での失敗の実例をご説明します。経済産業省の公表資料「ベンチャー企業の経営危機データベース」に基づいており、弁護士の鈴木が適宜修正編集等しています。

なお以下が会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧です。ご活用いただければ幸いです。
・ 会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧


会社経営の失敗の概要


 安易に起業したが売上がたたず、事業継続が困難に

消費不振や激しい企業間競争など、決して楽ではない営業環境であったにもかかわらず、前勤務先をベースに会社や事業を考え、何とかなるのではないかという甘い考えで起業を決意した。複数の商品や販路を持たずにスタートしたが、前職の経験によって商品や販路はすぐに確立できるものと思っていた。設立後約4ヶ月間は売上が立たず、資金もすぐに底をつき、事業を継続するか、断念するかを迫られることとなった。

 企業プロフィール

所在地 広島県
業種 製造業
従業員数 36名
設立・創業 設立:平成15年11月/創業:平成15年11月
事業分野 その他(文具、雑貨品)
事業概要 手帳、バック、ペンケース、バインダー等文具や雑貨品を製造。特に帆布を利用した製品に注力して好評も得ている。有力小売業者をはじめ全国に販路を有し、直営店も3店設置。近々4号店を開設予定。
社長の年齢 40歳代
創業時の属性
(職業)
会社勤務(中途退社)


会社経営の失敗の詳細


 結論

事業の立ち上げ時に、準備が不十分で商品の販路もなかったために、設立後約4ヶ月間は売上がなく、制度融資を活用した資金もすぐに底をつき、いきなり継続すべきかどうかの選択を迫られることとなった。

 設立から成功までの経緯

前勤務先を退社後、就職活動をしたが、なかなか就職先が決まらなかったため、最低資本金規制特例制度を利用して、資本金100万円の株式会社(現社)を設立した。ベトナム雑貨の輸入販売からスタートしたが、思ったように販路が広がらず、方向転換を余儀なくされた。その後、帆布を使った高級文具に的を絞り転換を図った。これが他社にないオリジナリティの高いものであったために一気に販路が拡大する。その後、その路線を基調に革製品、紙製品と商品の幅を広げていきながら、売上高も平成16年で約5,000万円、17年約1億2,000万円、18年約2億円、19年は約3億8,000万円を見込み、順調に拡大を続けている。

 課題・ヒヤリとした経験

最初の立ち上げの時に、起業資金を広島県の制度融資(創業支援資金)を活用したが、何の準備もせずに、ただ制度だけを使って安易に会社を設立したことから、準備が不十分で商品も販路もなかったために、設立後約4ヶ月間は売上が立たなかった。資金はすぐに底をつき、初年度で窮地に陥り、継続すべきかどうかの選択を迫られることになった。売上不足や資金不足に陥ったのは、あまり深く考えず、複数の商品や販路を持たずにスタートしたことに加え、当時の営業環境としても、競争の激しさなど決して芳しい状態ではなかったこともある。

 対処と結果

会社や事業の継続について悩んだが、帆布製品を思いつき、一か八かそれにかけてみることにした。当時のスタッフは4人のみで、その中で役割分担(営業・業務・企画・経理)をしていたが、売上を作るために月曜日から土曜日まで全員で販路開拓に取り組み、日曜日に作業や出荷をするということを2年間やり続けた。その結果、オリジナリティを維持したため、各製品の評価が次第に高まっていき、徐々に販路や売上高が拡大するようになった。こうした中で新しい素材との出会いもあり、それが新製品の開発につながり、それが更に販路や売上高を拡大させることとなった。

 原因

(1) 特性

経営未経験者の安易な考え
前勤務先をベースに会社や事業を考えていたために、何とかなるのではないかという甘い考えで起業を決意した。売上がなかなか立たず、資金もすぐに底をつき、いきなり窮地に追い込まれた。

(2) 要因

インフラはすぐには構築できるものではなかった
前職の経験によって、商品や販路はすぐに確立できるものと思っていた。また、大きな設備投資をしなければ、資金的にも何とかやりくりできるものと思っていたが、現実はそれと大きく乖離していた。

 経営判断

創業は安易にはできないと頭ではわかっていたが、実際にやってみると、想像を絶する困難が次から次へと毎日のように起こった。普通の状態にするのに2年間を要した。経営判断の誤りというよりも創業したことそのものが間違っていたのではないかと思うほど、準備と計画性が不足していた。創業前に事業全般に必要なインフラの準備、綿密な事業計画などが必要であることを痛感した。

 背景

最低資本金規制特例制度により資本金1円の株式会社が話題となり、だれでもすぐに会社が作れるような雰囲気があったが、企業経営の環境を考えてみると、消費不振や激しい企業間競争など、決して良い状態ではなかった。

 得られた教訓

会社をスタートさせるとき、当面の商品、販路、業務体制、売上計画、取引金融機関、資金繰り計画など、事業計画を策定し、できるだけ事業体制や組織を整えておくことが必要であったと思う。何か新しいことに取り組むときには、相当の時間をかけて準備をし、いきなり大きな展開を行うことは考えずに、小さなところでテストマーケティングを十分にするなどの段階が必要であった。希望的観測を基準にするのではなく、最悪の状態を想定して、それでも続けていけると判断した場合にのみ、次のステップに踏み込んでいくという展開をすれば、ある程度のトラブルや失敗は回避できるのではないか。

 後日談 

設立以来、倒産することなく、設立後第二期目からは順調に営業や事業を継続している。景気も幾分かは回復基調にあり、特に高級品の需要が以前に比べてかなり高まってきている。業績は大幅な増収ペース、それに伴って利益も増加ペースとなっている。平成19年9月には直営店が4店舗となる予定で、事務所や倉庫なども増設をせざるを得ない状況となっている。スタッフは若手が多く、社内の雰囲気も良く、今後の成長も期待されている。


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