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基幹事業ではない分野での商品が爆発的ヒットとなり、収益基盤が整っていない状況にも拘らず、増産に対応するため借入金を増やし、人員を増強。しかし、翌年は大量のキャンセル発生。契約書・発注書なしで取引していたことで、損失を被り債務超過に。メインバンクからは追加融資の打ち切りを宣告され倒産の危機に陥る。社員一丸となった経費削減と、基幹事業の評価等を背景とした資金調達成功で、危機を回避。
業種 | 製造業 |
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事業分野 | 電子機器 |
事業概要 | 工場等で使われる電子機器が基幹事業。一方で、基幹事業の技術を応用した商品Aの製造販売等も行っている。 |
社長の年齢 | 40歳代 |
創業時の属性 (職業) |
会社勤務(中途退社) |
基幹事業ではない従商品Aの予想外の爆発的ヒットにより売上は1年で倍増。増産体制をひくも、翌年は気象条件の影響などを受けて大量のキャンセルとなり損失発生。事業拡大に向け借入増に加え人員を増強していたため資金が固定化。メインバンクからは追加融資の打ち切りを宣告され倒産の危機に立たされた。残った社員と一丸になって経費削減に取り組むとともに、基幹事業への評価にも後押しされ資金調達に成功し、倒産の危機を回避した。
創業者は大手メーカーに勤務し、新規事業立ち上げを担当していた。会社が方針転換により担当した事業から撤退を決めた中、その事業の将来性と必要性を感じ、研究開発を継続したいとの理由で創業を決意。設立後、自治体から研究開発事業計画の認定を受け、複数の研究所と協力した研究開発に着手。各方面から注目される中、順調に研究開発は進み、数年後にはベンチャー事業分野で数々の表彰を受ける。
基幹事業については特に問題も発生せず、会社は順調な経営を辿っていた。そんな中、元々は基幹事業の技術を顧客に説明する目的で作られ、事業の中でも従商品である商品Aが予想外に注目を集め、受注が急増。受注と増産に対応するため借入金を増加させる一方、営業力を強化するため人員を増やした。このため経費が増大。しかし、翌年は気象条件に影響され、季節商品でもあった商品Aに大規模なキャンセル発生。契約書や発注書がなかったため、巨額の損害を被ることとなった。その結果債務超過に陥り、メイン銀行からは追加融資が得られず、倒産の危機に立たされた。
全社員に対し倒産の危機に瀕していることを告白し、大幅な経費削減及び希望退職者を募ることを決定した。その後、月次決算は全社員で情報を共有し、全員で改善点を話し合うことで経費削減に取り組んだ。創業メンバーはもとより残って欲しいと願った社員は全て残り、全員で経営課題に取り組むことで、団結力が強まった。売上は減少したが、リストラの断行により従業員数半減で黒字転換を果たした。また、資金繰りについては既存銀行借入には条件変更を要請。オーバーローンとなる分をベンチャーキャピタル引受けの社債にシフトした他、政府系金融機関からの融資も利用した。
借入・人員増加により資金が固定化
従商品が突然大ヒットし、ニーズの拡大に対応するため借入金を増やし、人員の増強に動いた。しかし、誰に売るのか、どういった流通を使うべきなのかを全く検討していなかったうえ、人材教育・経験・訓練が行われない状況で、結局、経費の増大を招くのみであった。
売買契約に対する経営スタンスの崩れ
発注書なしで受注を取ってしまったことが、大量のキャンセルおよび損失をかぶるという事態を生んだ。代表は大手メーカーにいた事もあり元々契約書に対する意識は強かったが、地元経営者からの「ある程度のルーズさも必要」とのアドバイスを受けたこともあり、結果的に契約に対するスタンスを崩してしまった。
商品Aはあくまでも従商品であったのだが、大ヒット商品となり1年間で会社の売上を倍増させたことが判断を狂わせた。収益基盤が整っていない状況にも拘らず、増産に対応するため借入金および人員を急激に増加させた。一方で、売上増に拘るあまり契約書・発注書なしで受注を取るなど、創業以来のスタンスを崩したことが、気象条件という特殊事情があったにせよ大量のキャンセルによる損失発生につながったことは否めない。
国内景気が長い不況感から脱却できないでいるなか、新技術を使用した商品Aは物珍しさもあり瞬く間に大ヒット商品となり、コピー商品も多数出回った。
当時「商品Aは利幅が薄く、過剰生産となる割には収益への寄与は少ない」とのアドバイスが一部あったが、代表は社業を急伸させる千載一遇のチャンスと考え、適正な生産量及び利益に対して盲目的になっていたと回顧している。このアドバイスを考慮する冷静な判断や、それ以前に契約段階で自身のスタンスを崩さず正式な契約書を取り交していれば、トラブルを避けることができたかもしれない。大ヒットによるブームを掴みかけたかに見えたが、大量キャンセルにより一気に経営危機に陥ったのは、事前のマーケティングや与信管理面の弱さが表れたとも言える。意思決定に際しては代表者の独断だけでなく、役員会及び社員、さらには業界関係者、金融機関の見解などトータルな判断の下に行われるべきであった。特に今回の事例では基幹事業でない分野が注目を浴びたことで余分な労力を消費した側面も否めない。事業が急激な右肩上がりを示す時ほど細心の注意が必要であった。
商品Aの事業規模は縮小。現在は大手企業を中心に回収に不安のない取引先を選別し、受注生産の形に移行している。一方、基幹事業では本来の強みを発揮。また、自社の技術力をもって新市場への参入も計画中である。ただし、先の反省から事業領域の急拡大には慎重な姿勢を示しており、スローペースで取り組んで行く方針だという。利益重視への経営の転換により直近2期は黒字を計上し、2007年期も黒字が確保される模様である。