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21 製造業の経営の失敗(21):経営未経験の研究者の起業の失敗

会社の倒産、破産に強い弁護士の鈴木陽介です。

ここでは、経営未経験の研究者が起業し経営危機に陥った実例をご説明します。経済産業省の公表資料「ベンチャー企業の経営危機データベース」に基づいており、弁護士の鈴木が適宜修正編集等しています。

なお以下が会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧です。ご活用いただければ幸いです。
・ 会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧


会社経営の失敗の概要


 経営未経験の研究者が起業し経営不振に

経営の経験が全くない研究者が事業計画もないままビジネスを開始したため、製品を発表しても売上がついてこなかった。営業不振が続き、多額の損失が累積し、資金繰りも逼迫した。このため、経験豊富な経営陣に刷新した結果、順調に経営が進むようになった。

 企業プロフィール

所在地 埼玉県
業種 製造業
従業員数 31名
設立・創業 設立:平成8年7月/創業:平成8年7月
事業分野 半導体・電子機器
事業概要 独立行政法人理化学研究所認定「理研ベンチャー」企業で、光源・光学技術をコアとする高性能全固体レーザーの研究開発・製造・販売を行う。同研究所との共同研究および産学連携を図れる強みがある。研究所や大学へ多数納入実績があり、民間企業へのOEMも拡大している。
社長の年齢 30歳代
創業時の属性
(職業)
大学・研究所等教職員


会社経営の失敗の詳細


 結論

事業をする以前に、市場、製品開発、人材確保、資金について、まったく実質的な計画が伴っていなかったため、事業展開をうまく図れずに業績不振が続き、多額の繰越損失を抱えることとなった。

 設立から成功までの経緯

理化学研究所発の第1号ベンチャーとして平成8年に創業した。理化学研究所の研究成果を実用化し、社会に貢献することが目的。大学院卒業後、理研の研究員となり、当社の設立に参画。平成17年代表取締役社長に就任した。設立から5年間は経営は迷走した。研究者が経営をすることの難しさを実体験することとなる。創業者で現会長の上司はこの時点で戦線離脱。外部からのサポートを受けながらの経営に移行、この時点で現会長がリーダーとなる。その後は研究所、大学等へ納入実績を積み上げることで比較的順調に成長し、昨今では民間企業へのOEMの拡大等もあり、売上高の拡大が続いている。

 トラブル・失敗・課題に至る経緯

平成7年に当社が開発した高性能レーザーを発表し、以後事業は軌道に乗るかに見えたが、業績は上がっていかなかった。平成11年に2回にわたる第三者割当増資を実施するも、総体的に資金計画が現実的でなかったうえ、営業不振が続いたことにより約1億円の繰越損失が累積し、資金繰りも逼迫していった。その後、経営陣の総入れ替えが行われ、現会長が実質的なリーダーとなった。

 対処と結果

経営陣の総入れ替えが行われ、現会長が実質的なリーダーとなる。資金的には、投資会社等に随時第三者割当増資を行い、平成17年にはさらなる第三者割当増資とともに、新株引受権付社債及び新株引受権を行使した。こうして、経営陣の入れ替えとスムーズな資金調達の結果、比較的順調に経営が進行するようになった。製品はすべてオーダーメイドで製造は外注依存とし、主に大学及び国立研究機関を対象に研究用製品を当社オリジナルとして販売。平成13年からは産業用として民間企業へのOEMも拡大し、19年からは量産体制も出来上がった。

 原因

(1) 特性

研究者のため経営経験がなかった
研究者としては卓越していたものの、企業経営については全くの素人であった。未経験者が経営を行ったことで、全く売上げが上がらなかった。

(2) 要因

実質的な事業計画がなかった
製品開発、人材確保、資金計画等、基本的な事業計画が欠如していた。市場についても調査をせず、十分な把握ができていなかった。「研究レベル」と「製品レベル」の違いを認識していなかったといえる。

 経営判断の問題点

研究所発のベンチャー企業として、研究所との共同研究および産学連携を図れる強みがあったものの、反面、研究肌が強すぎたため経営には不向きであった。当時からレーザー光源の専門メーカーとして、最先端レーザーを生み出す技術力は十分にあったものの、製品化のプロセス、市場の見極め、営業などの判断を誤ったために全く売上げが立たず、資金繰りに窮することとなった。「研究レベル」と「製品レベル」の違いを実感したという。

 背景

社会的、経済的、政治的な環境要因は全くなかったといってよい。全ては自社における経営が回らなかったことが要因である。

 得られた教訓

事業をしっかり見極めることができる人間が経営チームに食い込むことと、最低限のビジネスに関する教育を経営陣が受けていることが必要と考える。特に、外部資本を入れたベンチャー企業の経営は、町の会社の経営とは違うということ、経営の難しさを研究者が理解する必要がある。具体的には民間の経営コンサルタントの導入や、営業職のエキスパートの活用など、いくつか方法はあったものと考えられる。専門メーカーとして、最先端を担うだけの技術力は十分すぎるほどあったが、これを売上高につなげるだけの営業力やマネジメント能力を欠いていた。「研究力」と「営業力」が並存することの難しさがあるため、大学発の上場企業の育成に経験がある人等によるコンサルティング、経営チームへの参加が必要である。

 後日談

平成12年に商号及び経営陣を刷新し、現会長が実質的なリーダーとなって以降、都合9回の第三者割当増資により資本金は2億5,000万円あまりとなり、銀行からの低利の融資や、銀行保証付の私募債も発行できるようになり、以前に比べて資金調達は円滑になった。それまで公共一辺倒であった営業体制も、平成13年より産業用として民間へのOEMを開始し、量産化にこぎつけている。ここ数年の業績は、売上高の推移も順当であり、近い将来の株式上場も画策している。


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