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18 製造業の経営の失敗(18):対応困難な業務受注の失敗

会社の倒産、破産に強い弁護士の鈴木陽介です。


ここでは、対応困難な業務受注により経営危機に陥った実例をご説明します。経済産業省の公表資料「ベンチャー企業の経営危機データベース」に基づいており、弁護士の鈴木が適宜修正編集等しています。

なお以下が会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧です。ご活用いただければ幸いです。
・ 会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧


会社経営の失敗の概要


 積極的な営業で対応困難な業務を受注し経営危機に

設立当初は、企業として基盤が脆弱であったが、売上拡大に向けて積極的な受注確保を進めた。一部、独自の力のみで対応出来ない案件を引き受けてしまうこともあったが、高い技術力に支えられて何とか乗り切った。経営における経験が未知であったことから、考えていた対応可能レベルと実際のそれとは多少の開きがあったことが要因である。

 企業プロフィール

所在地 栃木県
業種 製造業
従業員数 24名
設立・創業 設立:平成8年1月/創業:平成8年1月
事業分野 半導体・電子機器(無線通信機器、制御機器、ネットワークシステムの設計製造)
事業概要 無線通信機及び制御機器、ネットワークシステムの設計製造を行う。高い技術力が最大の強味であり、大手企業を中心とした得意先を構成している。技術力を背景にメーカーへの転身を進めており、2010年にはグループ全体で35億円の年商を設定。アメリカ国内の会社買収も進めており、将来的にはIPOを視野に入れている。
社長の年齢 30歳代
創業時の属性
(職業)
会社勤務(その他:前勤務先の倒産)


会社経営の失敗の詳細


 結論

大手企業の隙間を縫った受注確保に向けて、積極的な営業を展開したが、当初は自社の身の丈以上の受注をしてしまった。当社が所有する技術では対応が難しい案件を受注し完成に苦労した時期もあったが、技術の更なる向上によって乗り切った。

 設立から成功までの経緯

通信機器メーカーに勤務し、無線通信機器の設計製造業務と営業部門の責任者として従事していたが、平成7年に倒産したため、同僚と共に2〜3ヶ月の準備期間を経て、平成8年に当社を設立した。当初は顧客を継続して事業を存続させていたが、営業を重ねると共に独自の得意先を開拓しており、現在では既存の顧客が4割、会社設立後に開拓した顧客が6割と顧客構成が逆転。特に大手企業を得意先に開拓したことで、継続的な受注を確保しており、経営規模の拡大につながった。

 トラブル・失敗・課題に至る経緯

ベンチャー特有の急成長に向けた積極的な姿勢と大手企業の隙間を縫って果敢に攻め入る営業戦略ゆえに、その当時独自の力のみで対応が困難な受注をしてしまった。営業時には自社対応が可能と思われていた案件も、実際に受注してみて初めて対応出来ないことに気付くケースも少なくなかった。

 対処と結果

自社が所有する技術や体制を超えた案件を受注したが、今までに築いたネットワークを活用することでカバーした。その分野を得意とする外注の活用で乗り切ることができた。従来までに取引のなかった外注先についても、紹介の形で新たに取引を開始することができた。また、各自のレベルアップの必要性を感じたことで、以後の経営に対する人材育成の比重も大きくなっており、その壁を越えたことで成長できた部分がある。現在では自社社員のレベル向上により対応できるようになり、こうした問題は生じていない。

 原因

(1) 特性

急成長に向けた積極果敢な営業姿勢
当初はベンチャー企業として基盤が脆弱であったが、急成長に向けた積極果敢な営業を進めていた。経営全般に多少の焦りが生じていた可能性があるが、会社成長にはある程度リスクも必要であり、多少無理な注文でも対応しようとする姿勢が強かったと思われる。

(2) 要因

実際の経営および技術レベルに乖離があった
自分が思い描く経営および自社技術レベルと現実との間には乖離があった。この乖離に気付くのが遅れたことも壁にぶつかった要因である。その後、研究および技術力の向上によりこうした課題は克服していった。

 経営判断の問題点

当社はベンチャーとして高い技術力を強みとしており、新たな得意先開拓と共に企業業績は軌道に乗りつつあったが、経営者としての理想と現実の乖離及び技術力の不足を把握しきれていなかったため、壁にぶつかったと考えている。自社の体制を完全に把握していれば、ある程度回避出来た問題でもある。未知の部分にも挑戦していく姿勢ではあったが、経営者としての経験不足も実感することとなった。以後、人材育成及び経営者としての勉強を重視することで、会社も人もより成長できるようになった。

 背景

公的な支援制度はある程度整備されているが、民間金融機関の対応は現実的には冷ややかなこともあった。ベンチャー企業に対する支援が十分ではない環境下、自力でなんとかしなければという焦りにつながった可能性がある。もっと、ベンチャー企業に対する支援意識を向上させると共に社会的にも啓蒙活動や支援制度の充実等を積極的に行って欲しいと考える。

 得られた教訓

自社の技術力を含めた総合的な企業の実力の把握が不十分であった。これが十分であれば、壁は回避出来たかもしれない。現在では人材育成に重点を置いており、各人材のスキルアップで今後多種多様な問題に対応出来る体制整備を進めている。特に、近年は経営コンサルタントを導入し各個人の体系的なレベルアップを図っている。今年度は人間力向上のセミナーを導入した。現段階で公的な支援制度の利用はないが、今後は随時利用も検討している。技術力の向上と共に社員教育による総体的な企業の実力の向上を図るとしている。

 後日談

現在は過去のつまづきや壁を乗り越えて、経営は順調に軌道に乗っている。2010年にはグループ全体で35億円の売上を目標としており、独自のブランドを持つメーカーへの転身を視野に入れている。また、欧米企業の買収を進めている最中でもあり、海外への展開も積極的となっている。最終的にはIPOも目指しており、過去の失敗を教訓として意欲的な姿勢で経営に臨んでいる。

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書籍:歯科医院の事業承継とM&A

学建書院,2016年