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76 建設業の経営の失敗(2):自社ビルの購入の失敗

会社の倒産、破産に強い弁護士の鈴木陽介です。

ここでは、自社ビルの購入に失敗した実例をご説明します。経済産業省の公表資料「ベンチャー企業の経営危機データベース」に基づいており、弁護士の鈴木が適宜修正編集等しています。

なお以下が会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧です。ご活用いただければ幸いです。
・ 会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧


会社経営の失敗の概要


 自社ビルの購入に失敗し借入金負担の増大に

本業である外溝工事から内装工事、不動産売買・仲介と事業を広げ、さらにファンド事業、貿易事業と多角化経営に乗り出したが、十分なノウハウを持たない新規事業は成功しなかった。さらに本社ビルを購入し、家賃収入を得る計画があったが、思うようにテナントが入らず借入金負担が増大し、一時は経営の重荷となった。

 企業プロフィール

所在地 大阪府
業種 建設業
従業員数 6名
設立・創業 設立:平成14年1月/創業:平成14年1月
事業分野 貿易業・不動産仲介業・建設業
事業概要 一般土木建築工事業、店舗内装工事業、不動産売買及び仲介業等、幅広く事業を展開していたが、現在は規模を縮小し、貿易事業(日本の商材を海外へ輸出するコンサル業務)・不動産投資ファンドに持ち込む大型物件の仲介等・建設業における仲介、コンサル業務を主に手掛けている。
社長の年齢 30歳代
創業時の属性
(職業)
会社勤務(中途退社)


会社経営の失敗の詳細


 結論

本業以外の分野にも積極的に進出し、多角化経営を目指したが、事業拡大に資金が追いつかず、急速な業容拡大が裏目に出る形となった。また本社ビル購入によりテナント賃貸収入を得る計画だったが、テナント誘致が進まず、借入金負担が重くのしかかり資金繰りの悪化を招いた。

 設立から成功までの経緯

平成14年に前勤務先の同僚2名と共に当社を設立。当初は戸建・マンション関係を主体とした外溝工事等を中心に事業を展開していたが、平成17年頃より大型スーパーやカラオケ店舗等を中心に店装工事や不動産売買・仲介及び建売業等にも事業を拡げ、大阪市内に本社を移転。最終的には不動産ファンド事業や貿易事業にも着手し、売上高も平成16年期は約3億5,000万円、17年期は約4億7,000万円(6ヶ月決算)、18年期は約7億8,000万円と急拡大を遂げた。

 トラブル・失敗・課題に至る経緯

土木工事業に加え、店舗内装工事、不動産業にも事業を拡げ、本業以外の分野にも積極的に進出していった。さらに平成18年からはファンド事業、貿易事業にも着手するなど多角化経営を目指す。しかし急速な業容拡大は裏目に出る形となった。人員体制の不整備もあり、ノウハウが不足する貿易事業は成功しなかった。また、本社ビル購入に伴う借入金負担の増加なども重なり、業容拡大に資金が追いつかない状態となった。ワンフロアを本社とし、他の階は賃貸収入を得る計画だったが、テナント誘致も進まず、資金繰りは悪化していった。

 対処と結果

平成18年に入り、貿易事業からの撤退、購入した本社ビルの売却を検討した。しかしながら、資金不足を補うためのビル売却であったが、売却先は見つからなかった。金融機関にも掛け合うが支援を得られず、手形決済日が迫る中、弁護士と相談した上で、民事再生手続開始の申し立てを行った。

 原因

(1) 特性

経営者の拡大志向、社内体制の不整備
業容拡大から社員も大幅に増加したが、社内体制は未成熟で、代表者の管理も十分には行き届かない状況にあった。また、経営者の拡大志向も強すぎる面もあったが、急激な拡大路線を冷静に判断できる組織体制も築かれていなかった。

(2) 要因

多角化の失敗、本社ビル購入による借入金負担
拡大路線から多角経営を進めたが、ノウハウが不足する貿易事業などが行き詰りが生じた。また、本社ビルを購入したが、売上規模以上の金額で物件を購入したため、借入金負担が増加。本社以外のフロアよりテナント賃貸収入を得る計画だったが、テナント誘致も進まず、次第に経営にのしかかっていった。

 経営判断の問題点

積極的な事業拡大を推し進め、社員も大幅に増加したが、社内体制は未成熟なままであった。既存事業を他の役員に任せ、各事業のトップとして権限を委譲した結果、代表者の管理は行き届かず、役員の不正も発覚した。拡大路線から購入した本社ビルも売上規模以上の身の丈を超えた金額で購入。テナント誘致で家賃収入を得て返済する計画だったが、計画にズレが生じた。拡大志向を優先させすぎたため、冷静な判断が下せなかった結果といえる。

 背景

社会情勢に大きな要因はないが、所在地周辺の地価は概ね上昇傾向にあり、不動産投資が多少過熱感を増しつつあった状況でもある事から、本社ビル購入の判断に対して多少なりとも影響はあったものと見られる。

 得られた教訓

急ぎすぎた拡大路線を見直し、社内体制がしっかりと築かれていれば、避ける事ができたかもしれない。本業以外の新規事業にも意欲的に取り組み、これまでのノウハウも実績も不足する貿易業務に着手したが、参入事業の見極めが必要であった。代表者自身は会長職に退き、新規事業に邁進したが、既存事業を他の役員に任せ、各事業のトップとして権限を委譲した結果、代表者の目が届かなくなってしまった。

 後日談

平成19年再生計画が認可され、現在は業容規模を縮小し、堅実な事業を継続している。既存取引先の協力の下、地道に営業を続けおり、また、有力な支援者のバックアップも受け、着実に回復、成長は進んでいるという。

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