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株式評価について、併用方式(純資産法70%、収益還元法30%)を採用した判例です。会社の引継ぎにお悩みの方は、中小企業のM&A・事業承継に強い弁護士にご相談下さい。

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3 M&A、事業承継の株価評価に関する判例(3)

M&A・事業承継に強い、弁護士の鈴木陽介です。

会社の引継ぎにお悩みの経営者の方は、サンベル法律事務所にご相談下さい。会社の引継ぎ、承継には、M&A、事業承継に強い弁護士を関与させるべきです。


弁護士鈴木が力を入れているM&A・事業承継のコラムです。

株式評価について、併用方式(純資産法70%、収益還元法30%)を採用し、市場性欠如による30%の減価を行った判例をご紹介します。内容は、中小企業庁の公表資料「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン(平成21年2月,中小企業庁)」に基づいており、弁護士鈴木が適宜編集等しています。

 非上場株式の株価評価のコラム

1  株価評価:収益方式 純資産方式 比準方式
2  収益方式による株価評価(1):収益方式の種類
3  収益方式による株価評価(2):収益方式選択の留意事項
4  純資産方式による株価評価とその留意事項
5  比準方式による株価評価とその留意事項
6  国税庁方式による株価評価とその留意事項
7  併用方式による株価評価と評価方式に関する裁判例

 株価評価の判例紹介のコラム

1  純資産方式を採用した判例
2  配当還元価額を類似会社の配当性向で修正した判例
3  併用方式(純資産7、収益還元3)を採用した判例
4  ゴードンモデルを採用した判例
5  併用方式(配当還元6、純資産・収益還元各2)の判例
6  併用方式(配当還元方式7、時価純資産方式3)の判例
7  併用方式(配当還元方式5、純資産方式5)の判例
8  株式評価の方法に関する考え方を論じる判例
9  DCF方式、ベンチャー企業の株式評価の判例
10 新株発行の株価評価の判例
11 類似業種比準方式を併用した判例
12 新株発行の差止仮処分申立事件の株式評価の判例


併用方式(純資産法70%、収益還元法30%)を採用した裁判例

 東京高裁昭和63年12月12日決定:事案の概要

 本件会社は、昭和44年6月24日に不動産の賃貸及び管理等を目的として設立された株式会社である。本件会社の発行済株式総数は1万株であり、その株主構成は、Aが3000株、本件会社の取締役Bが6000株、本件会社の代表取締役Cが1000株を所有していた。
 本件会社は、資本金500万円で、その資産は、借地権(約30億円相当)と当該借地上の建物がそのほぼ全てであり、その営業は当該建物を第三者に賃貸することのみであって、直近2年間の年間平均利益額は92万6000円であるが、株主に対して利益配当は実施していない。なお、従業員は全く雇用していない。
 Aは、その所有する本件会社の株式3000株を譲渡するに際し、昭和61年12月15日、同会社に承認を求めたが、同会社はこれを承認せず、Bを買取人と指定した(これによりBは9000株(90%)を所有することになる。)。

 裁判所の判断

1 抗告理由一について

 (「事案の概要」で摘示した諸事情を認定したうえ)右認定事実によれば、本件会社は、営業の利益をあげて株主に配当することよりは、むしろ、資産の保有を目的とする色彩の濃いものであるが、ともかくも、会社設立以来19年間にわたって営業を続けてきており、今後直ちに解散して清算するというものではないと認められるから、清算を擬制した純資産価額方式のみによって本件株式の売買価格を決定するのは相当でなく、会社の存続を前提とした算定方式による価格をも斟酌して決定すべきである。したがって、純資産価額方式のみによって本件売買価格を算定すべきであるとのAの主張は採用することができない。

2 抗告理由二について

 Aは、Bは本件株式を取得後は、これをいつでも取締役会の承認を得て第三者に高価に売却できる立場にあるのであるから、譲渡制限のあることを理由に本件株式の売買価格を減額することは、Aの犠牲においてBを利得させることになり、不当であると主張する。しかしながら、本件売買価格は、本件株式の売渡請求時における譲渡制限のある状態での客観的価値によって決定すべきものであって、会社の指定した買主が誰であるかといった主観的事情により左右されるべきものではないから、Aの右主張は採用することができない。

3 抗告理由三について

 Aは、○○株式会社との間で本件株式を1株当たり15万円をもって売買する旨の合意をしているから、その価格をもって本件株式の売買価格とすべきであると主張するが、右合意のあることのみをもって、直ちにその合意価格を本件株式の売買価格とすべきものではなく、他にその合意価格が客観的、合理的なものであると認め得る資料は何もない。したがって、Aの右主張も採用することができない。

4 併用方式の採用

 本件の場合、本件会社に類似した上場会社は見当たらないから、業種、態様の類似する上場会社を選択し、収益、配当、純資産等を比準して株式の価格を算定するところの類似業種比準方式は、これを採用し難く、また、本件会社は、利益配当をしていないから、利益配当還元方式もまた採用し難い。したがって、本件売買価格は、前記の純資産価額方式と収益還元方式を併用して算定すべきであり、本件会社の実態に鑑みると、その併用は、会社の資産に対する持分としての要素を重視し、前者による算定額の7割と後者による算定額の3割をもってするのが相当である。

5 本件株式価格の算定:6万0372円

 そこで、まず、純資産価額方式により、本件建物と本件借地権の価格合計29億1970万2000円から負債総額6968万円を控除し、さらに清算のため右資産を処分した場合に納付すべき法人税等16億2190万1000円を控除し、その残額を総株式数の1万株で除して、本件株式の1株当たりの売買価格を算定すると、その額は12万2812円となる。また、収益還元方式により、年間利益額92万6000円を総株式数の1万株で除し、利益率を年10%として、本件株式の1株当たりの売買価格を算定すると、その額は926円となる。
 次いで、本件株式が、非上場株式で市場性がなく、かつ、譲渡制限が付されているものであることに鑑み、さらに3割を控除して、本件株式の1株当たりの売買価格を算定すると、その額は6万0372円となる。


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弁護士鈴木陽介書籍裁判例

書籍:歯科医院の事業承継とM&A

学建書院,2016年