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従業員の開示型評価制度を導入し失敗した実例です。経営不振に悩む経営者の方は、会社の倒産、破産に強い弁護士にご相談下さい。

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58 情報通信業の経営の失敗(2):従業員の開示型評価制度の失敗

会社の倒産、破産に強い弁護士の鈴木陽介です。

ここでは、従業員の開示型評価制度を導入し失敗した実例をご説明します。経済産業省の公表資料「ベンチャー企業の経営危機データベース」に基づいており、弁護士の鈴木が適宜修正編集等しています。

なお以下が会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧です。ご活用いただければ幸いです。
・ 会社の経営失敗、倒産、破産の実例紹介の弁護士のコラム一覧


会社経営の失敗の概要


 就業規則の改定で従業員の開示型評価制度を導入するも失敗

従業員が増加していくなかで就業規則等の制度を導入したが、一部従業員は評価制度に不満を抱いて反対、数名の従業員が辞職していった。評価を全て開示することで公平な評価を目指したが、必ずしもIT技術者のモチベーションアップには繋がらなかった。大企業のような開示システムは、中小企業では評価と報酬への反映に限界があり、当てはまらないが、経営者の経験不足により考慮されなかった。

 企業プロフィール

所在地 広島県広島市
業種 情報システム開発、ネットワーク・PC支援及び教育事業、人材派遣
従業員数 86名(2007年3月現在)
設立・創業 設立1999年4月・創業1999年3月
事業分野 情報システム開発、その他
事業概要 ミドルウェア領域を得意分野とするソフトウェアの受託開発をメインに、サーバ構築・導入から各クライアントの設定、ネットワークシステムの運用サポート等のネットワークソリューション事業、導入したシステムを使いこなせるような人材の育成やクライアント社内の技術者のレベルアップ研修実施等のIT教育事業、アウトソース事業を展開している。システム提供にきめ細かいトータルサポート等を組み合わせ、受注先を広げると共に人員も増強し、順調に売上高を伸展させている。
社長の年齢 30歳代
創業時の属性
(職業)
会社勤務(個人事業)


会社経営の失敗の詳細


 結論

新しいものに取り組んで業容を拡大し、人員を増強していくなかで、就業規則の整備が必要となり、経営者の経験から公平な評価を目指し、評価内容を全て開示する制度を提案した。しかしながら、一部従業員は不満を抱いて反対、この解消や説得に苦慮することとなった。客観的な評価や開示システムでは、必ずしもIT技術者のモチベーションアップには繋がらなかった。結果的に、導入後、待遇面で不満を持った従業員数名が辞職していった。そもそも、中小企業では評価と報酬への反映に限界があり、大企業のような開示システムには抵抗が大きいが、経営者の経験不足により考慮されなかった。

 設立から成功までの経緯

1988年専門学校を卒業し、同校を始め複数の専門学校を運営する(学)Z学園に入り、講師に従事。約11年間勤務し、教育者からマネジメントも任されるようになることに疑問を感じるようになった。元々、「ものづくり」をしたいとの意識は強く、起業の意向も持っていた中で、原点に立ち返って自分が作りたいことをするため、起業に踏み切った。反対する家族等周囲には、3年間という期限を切って説得した。
設置作業等のパソコンサポート事業からスタート、NTTグループのシステム交換等も行い、同グループ等の代理店事業や講師、インストラクターの派遣、セミナー事業を加え、さらにパソコン教室も展開したが、競合や人件費負担の高まりなどから2003年に撤退した。その後、ミドルウェア領域を得意分野にソフト開発のウエイトを高め、受託開発の他にオリジナル製品の開発も進める。広島インターネットビジネスソサエティ(通称・HiBis)のインターネットフォーラム優秀ビジネス賞、ひろしまベンチャー奨励賞、広島市中小企業企業診断受診優良企業を受賞。その他の事業も組み合わせて展開し、業容を拡大している。

 課題・ヒヤリとした経験

個人企業からスタートし、間もなく法人化、社長自ら現場に出て各種業務をこなし、新しいものにも取り組んで業容を拡大、これと共に人員も増強していった。幸運な面もあって、資金的にそれほど厳しい状況に陥ったことはなく、常に新しいものに取り組んでいる中で、お祭りの前のようなテンションの高い状態を保っている面もあり、さほど苦労したことやつまづきを感じた点はない。ただ、徐々に増員していく中で、2004年10月に就業規則等を整備した際、特に評価制度に関して一部従業員の反対を受けたことは、苦労といえるかもしれない。公平な評価を目指し、どこまで評価内容を開示してどのように給与に反映させるかが課題となったが、全て開示する形とした。しかしながら、中小企業では評価と報酬への反映に限界があり、待遇を上げる内容ではあったが、アッパーラインが見えすぎるため、必ずしも社員のモチベーションアップには繋がらなかった。待遇は上げた形で規則等の変更を提示したが、一部従業員はそれに対して不満を抱いて反対、この解消や説得に多少苦慮した。

 対処と結果

経営者の独断による制度改革を改め、従業員一人一人との個別面談等を実施して、これまで見えてなかった部分を含めた様々な意見のあぶり出しに努め、一つ一つ解決していく方策を採った。話し合いの場を設け、従業員の仕事に対する意見を聞くと同時に、会社の方針を説明していった。多少時間は要したが、問題をクリアして、従業員の不満を少しずつ解消し、就業規則等を整備することができた。これまで十分には分かっていなかった個々の考え方等について、ある程度把握ができた。ただし、問題発生時に辞めた社員はいなかったが、当初反対をした社員の中から、その後やはり待遇等に不満を抱いて数名は退職した。

 原因

(1) 特性

技術者に対する動機づけの難しさ
IT業界に従事する、特に技術者には特殊な考え方を持つ人が多く、客観的な評価やインセンティブでは動機づけには繋がらなかった。また、会社自体が設立して4〜5年程度しか経過していないため、管理体制等がまだ整っておらず、会社の考え方も共通認識を持たなかった。

(2) 要因

経営者として安易な考えと経験の不足
ベンチャー企業という身の丈にあった制度、システムを提案できなかったのが要因と考えている。評価を開示したらモチベーションが高まるといった安易な考えもあった。経営者としての経験の乏しさや、勉強不足がこの問題を引き起こしたと考えている。

 経営判断

一人のワーカーとしての考え方から、管理者や経営者としての考え方がまだできていなかった。また、大きな組織の中で自分が経験してきたものが全てとの意識もあり、柔軟な対応ができなかった。中小企業における人事評価制度と大企業におけるそれとは性格が異なることを理解していなかった。ミスというよりも経験不足がこうしたトラブルを生んだと考えている。

 背景

ベンチャー企業では評価と報酬への反映に限界がある。ベンチャー中小企業は組織・従業員数・経営方法等で中規模企業や大企業とは大きな相違があるため、大企業のやり方をそのまま導入してもうまく当てはまるとは限らない。ベンチャー企業には経営実態に見合った独自の人事評価制度や賃金体系が必要となる。

 得られた教訓

立場が変わったことによる意識の転換や、これまでに経験したことがないことへの勉強意識があれば、回避できたかもしれないと考えている。結局は人を動かすことが一番難しく、立場等に応じた考え方の転換は必要である。これまで始めることとやめることを繰り返してきたが、始めることは比較的容易であるが、従来の制度をやめることは勇気が必要で、判断も難しい。こうした判断力、決断力を養うためにも様々な経験、勉強が必要である。

 後日談

起業してから現在までを振り返り、色々と分かるまでには時間が必要で、分かったときに行動力が伴っていなければだめだと感じているため、もっと若いうちに起業し、様々な経験をしておけば良かったとの思いは強い。ただ、自分がやりたいことを皆で一緒にやることができれば会社は大きくなるし、人との繋がりが強みだとも感じており、長い間の講師生活で多くの教え子達と知り合ったことが、現在に繋がっていると考えているため、これまでやってきたことに悔いはない。

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